では、気になる最新老眼治療、「多焦点眼内レンズ」を紹介しよう。

「多焦点眼内レンズによる老眼治療」は、遠近両用レンズを水晶体の代わりに眼内に入れ、遠くも近くも見えやすくする方法だ。正しくは「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」といい、白内障手術(水晶体再建術)のオプションとして行われている。

 国内でいち早く多焦点眼内レンズに注目し、老眼治療を兼ねた白内障治療を始めたのが、東京歯科大学水道橋病院(東京都千代田区)眼科教授のビッセン宮島弘子さん。この治療についてこう説明する。

「白内障治療では、濁って硬くなった水晶体を摘出して、代わりに人工の眼内レンズを挿入します。一般的には、ピントを1カ所に合わせた単焦点眼内レンズを入れることが多い。白内障による見えにくさは解消できますが、ピントが合いにくい。見たい距離によってメガネを使い分ける必要が出てきます」

 水晶体の代わりに入れるレンズに単焦点眼内レンズではなく、複数にピントが合う多焦点眼内レンズを用いれば、遠くも近くも見えるようになる。「老眼鏡なしの生活も可能」(ビッセン宮島さん)という。

 ちなみに、単焦点眼内レンズを用いた白内障治療は公的医療保険が利くが、多焦点眼内レンズを入れる白内障治療は対象外。2008年から先進医療の位置付けで治療が行われている。厚生労働省の認定を受けた医療機関であれば、多焦点眼内レンズを入れるための手術費用は自費になるが、術前術後の検査や診察は保険が利く(※)。※承認レンズのみ。未承認レンズは先進医療の対象外

 取材の前日にも20人以上の患者に白内障手術を行い、「その大半で多焦点眼内レンズを入れた」と話すビッセン宮島さん。

「白内障手術は年間約160万件行われていますが、そのうち多焦点眼内レンズを用いた手術は約1万件。治療を受けた家族や知人に勧められたという患者さんが多いですね」(同)

 数はまだ少ないが、治療を受ける患者は年々増加傾向にある。厚労省のデータでは5年前の3.6倍だ。

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