「多焦点眼内レンズが登場したのは、今から30年ほど前。何度も改良され、レンズのバリエーションが増えた。一人ひとりの“見たい距離”に合わせられるレンズが登場しています」(同)

 前出の宮田さんは、多焦点眼内レンズを用いることに対しては慎重派だった。

「ちゅうちょしていたのは、レンズの種類が1種類しかなかったから。それでは患者のニーズに応じられないと考えたからです。今は、レンズの種類が多様になり、選択肢の幅が広がってきたので、希望する患者さんには積極的に行うようにしています」(宮田さん)

 とはいえ、「多焦点眼内レンズは魔法のレンズではない」(ビッセン宮島さん)。まだ問題点もあり、デメリットもしっかり理解したうえで治療を受けないと、トラブルにつながりかねない。やり直すには再手術しか方法がないだけに、慎重になるべきだろう。

 二人の専門家が指摘するのは、“見え方の問題”だ。人工レンズは水晶体のように厚みを調整してピントを合わせるわけではない。レンズに施した特殊な技術で外から入ってくる光を分けて、遠くや近くを見えるようにしている。そのため、今までとは違った見え方になるのだという。

「具体的には、モノの輪郭がぼやける『コントラスト感度の低下』や、夜間に照明の周りに輪ができたり、まぶしさを感じたりする『ハロー』『グレア』といった現象が起こりやすい。また、ピントが合うまで時間がかかることもあります」(宮田さん)

 多くの人は時間が経つにつれ、こうした見え方に慣れて気にならなくなる。しかし、なかにはずっと慣れずに、手術でレンズを摘出する人もいる。

 ただ、こうした見え方の問題も今後は払拭できそうだ。というのも、進化型の多焦点眼内レンズが、相次いで登場しているからだ。

「現在の多焦点眼内レンズは遠近の2カ所にピントを合わせたものがほとんどですが、最新の3焦点眼内レンズは、遠近だけでなく中間の距離も含む3カ所にピントを合わせています。また、従来の多焦点眼内レンズとは違った考え方で遠くから近くまでを流れるように見えるようにしたEDOF(Extended Depth of Focus)も出てきています」(ビッセン宮島さん)

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