入居一時金がなく、要介護度5でも月約9万1千円(多床室型)と負担が比較的軽い。それだけに申し込み希望も多く、待機者は2016年4月時点で約36万6千人。15年度から、入居要件が原則として要介護度3以上に制限されている。

 特養に入れないと、別の施設を探すことになる。要介護度や認知症の症状の有無とともに、施設選びの大きなポイントが手持ち資金。それぞれの施設に入居するには、65歳の定年時に貯金がいくら必要かも試算した。

 試算は、次のような老後を前提にしている。65~79歳は自宅で元気に過ごす。年金で足りない生活費として月3万円ずつ貯蓄を取り崩す。80歳で介護が必要になり、90歳前までの10年間を施設で過ごす。月々の年金(12万円と想定)でまかなえない利用料分は貯蓄を取り崩す。施設入居前と入居後の取り崩し額の合計が、65歳時点で必要な貯蓄額になる。

 例えば、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を選ぶ場合、入居前の貯蓄取り崩し額は計540万円(3万円の180カ月分)。要介護度5の人の入居後の貯蓄取り崩しが1032万円(月額入居費と年金の差額8万6千円の120カ月分)。計1500万円余りが、定年時に必要な貯蓄額の目安と考えられる。

 金融資産を年代別にみると、定年前の50代の世帯は貯蓄が約1050万円で、借り入れが約580万円。60代になると、住宅ローンなどの借り入れは減るが、貯蓄を食いつぶしていく生活が本格化する。

 資産の違いによる終のすみかの格差は実に大きい。

 ある首都圏の有料老人ホームは「お金持ちが入る施設」と有名だ。丘の上にそびえ立つ建物に入ると、近所の人も使える喫茶ルームがある。広いラウンジにはコーヒーの香りが漂う。

 入居者の男性(88)は4年前、1歳年下の妻と住み始めた。先に入居していた友人を訪ねた際、雰囲気が気に入ったという。「私は子どもがおらず、何かあったときに不安でした。安否確認してくれる施設に入りたかったのです」と話す。

 真夜中に倒れても、併設クリニックの医師が24時間対応してくれる。入居一時金は夫婦2人で6千万円。食費や水道光熱費を含めて使用料は月25万円。年金の範囲内なので、自宅は売らずに残して、今でも週末に戻っているという。

「ホームは体調が悪くなったときのセカンドハウスみたいなもの。ずっと居続けると人間関係に疲れるから、適度に自宅と行き来するのがいいのかもしれないね」と男性は悠々自適だ。

 こうした“極上”の老後を送れる高齢者は一握り。高齢者世帯の約4割が、年間所得200万円未満だ。有料老人ホームは、特養と比べて費用が格段に高い。一定以上の所得がないと、冒頭で紹介した女性のように住み続けられなくなる。(村田くみ)

週刊朝日 2018年3月2日号より抜粋