約6カ月くらいそんな状態でしたが、ある朝、6時ごろだったでしょうか。黒澤さんから「やっとお金を出してくれるところが見つかった」というお電話をいただきました。私もうれしくて涙がぽろぽろ出てきました。「やっと安心して衣装づくりを続けることができる」って。

 棚上げされた半年は先の見えない時間である一方、本当に貴重な時間だったと思います。普通、撮影前に衣装ができあがっていることはあり得ませんが、「乱」では結果、すべての衣装が撮影前にそろっていました。そんな映画は後にも先にも「乱」だけです。

「乱」の衣装ができた時、まっ先に「すてきだね」とおっしゃってくださったのは黒澤さんでした。実は日本映画で「衣装デザイナー」というクレジットが明記されたのは、「乱」が初めて。それまでの日本映画で衣装デザイナーの地位はなきに等しいものでした。そういうところも理解のある方でしたね。

「乱」はアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞しましたが、その時も黒澤さんがすごく喜んでくださった。私はこれまで各国で多くの映画賞をいただきましたが、オスカーは映画にかかわっている人が選ぶ賞。そこが気に入っています。世界中の映画監督たちと今も仕事ができているのも黒澤さんのおかげ。オスカーの威力は32年経って、ようやくわかりました(笑)。

週刊朝日 2018年2月2日号