「いつ死ぬかわからないから、もらっておいたほうが得」と考える人が多いが、平均寿命を考慮するとそうともいえない。北村さんが算出したところ、支給年齢を1年延ばして66歳に繰り下げた場合、77歳10カ月以上生きれば「得」になるという。ちなみに、現在の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳だ。

 前出の山崎さんは言う。

「長生きを前提に考えると、年金受給を先延ばしにすることそのものが“貯金”になる時代。健康や家計に不安があれば、無理に繰り下げる必要はないですが、1カ月でも繰り下げると一生支給額が増えるので、長い目で見ればお得。夫婦2人の場合、例えば夫は65歳から受給し、妻は繰り下げるなど、受給方法を夫婦で分けるのも手です」

 働かずして、もっと増やしたい、もうけたいという高齢者もいるだろう。だが、「運用」はリタイア世代には“鬼門”。投資初心者は、いくら退職金があるとはいえ、むやみに手を出さないほうが賢明だ。先が限られていることが最大の弱みになる。

「65歳過ぎて、元本割れが怖いと思う人は、やめておいたほうがいい」

 山崎さんはこう強調する。基準となるのは、自身の“リスク許容度”だ。株式投資であれば、「元本の20%は下がることを考えた上で、投資金額を設定すべき」(山崎さん)という。経験が浅い人ほど、少額で始めることは、投資の鉄則でもある。

「金融機関も商売ですから、投資金額を下げるようなアドバイスは絶対にしません。それを理解したうえで、投資金額は自分で決めること。金額を抑えることは、自分にしかできないことなのです」(同)

 それでも始めようという人は、「まず株式投資から始めるのが良い」(同)。投資で一番大事なことは、自分の頭で考えて判断すること。

「だから投資信託のように人に運用を任せるより、投資に対してずっと真剣に向き合うことができます。頭の体操にもなるし、日々のニュースを見る目も変わる。リスクを受け入れ、耐えられる額で始めるならチャレンジする価値もある」

 2018年、100歳まで生きる時代に向けて、賢い家計管理を始めよう。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2018年1月5-12日合併号より抜粋

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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