取材に応じる東大の近藤秀一選手
取材に応じる東大の近藤秀一選手

 箱根駅伝を走る東大生、近藤秀一選手(22)は工学部化学生命工学科で学ぶ3年生だ。週に3日は、午後はほとんど実験で、そのリポート提出にも追われ、残り2日も演習で、大学に行かない日はない。しかも遠征費などを捻出するためにアルバイトもしている。普通の理科系の学生なら当たり前の生活だがアスリートとしては異常と言える環境で学生長距離ランナーの憧れ・箱根を走る権利を得たのだ。“文武両道”という言葉が浮かぶが、彼は、その言葉が「好きではない」。彼の感覚では「学業とスポーツの間に壁を作らない」ということらしい。

「学業とスポーツに共通しているのは、一つの物事を突き詰めていく、ということ。大学受験なら、〇△大学に合格したい、という明確な目標を定め、そのためにセンター試験と2次試験で何点必要で、その手段として問題集をいつまでに解けばいいか……目標から逆算して考える姿勢が求められます。陸上競技も同じで、目標とする大会で、このくらいの結果を出したいとしたら、逆算し、いつまでにこういう練習をして……と、やっていくんです。

 長距離では、月間何キロ走らなければいけない、という固定概念があります。そういうものにとらわれず、強くなるために何が必要か?という真理を追究していく作業だと考えると、学問とスポーツには全く壁がありません。違うのは研究対象が競技者である自分だということ。真理を追究する作業だというマインドを大事にしてやっているので学業とスポーツの両立で苦労するという経験をあまりしていないんです(笑)」

 長距離レースの真理? 自分自身を研究対象に、どんなことを追究しているのだろう? そう思っていると、彼はサラリと言った。

「酸素を、いかにエネルギーに変換していくか、ということです。そのために身体にいい刺激を与え、その応答を確認しています」

 科学的な真理の追究を哲学的な言葉で表現する近藤君。12月21日には本郷キャンパスで、東大からプロ(日本ハム)入りする野球部の宮台康平投手と対談し、こう語っていた。

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