Tさんが、奇妙な言葉を継いだ。

「私、結婚して四人も子供を産んだの」

(えっ、そんなに小さいのに?)

 思わず心の中でそう呟いて、大センセイ、自らのいじめの正体を悟った。中学時代、彼女の背が低いことをよくからかっていたのだ。こちらは軽いからかいのつもりだったが、彼女にとってそれは、執拗ないじめだったに違いない……。

 閉会の挨拶が終わり、すっかりションボリしながら会場を離れようとすると、やはりちょいワルで、モテ男だったもうひとりのヤマダ君が通路の前を歩いていた。取り巻いている女性たちの声が響いてきた。

「そう言えばさぁ、ヤマダってもうひとりいたよね」

「ああ、あのガリ勉ね」

 人はなぜ、同窓会に行くのだろうか。

週刊朝日  2018年1月5-12日合併号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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