定年間際であれば、残りの働く期間を考えると、長期のローンを組むことは厳しいと感じる人も多いだろう。「50代以上の92.2%が借り入れをしないというデータもあって、キャッシュで支払う傾向がありますね」(福澤さん)

 リクルート住まいカンパニーによる16年のリフォーム実施者調査で、50代以上でリノベーションやリフォームにかかった費用は、平均624.8万円。当初計画する予算の平均は503.2万円だという。

「予算をオーバーすることは多いですね。大きな金額を支出するわけですし、『これが住宅にかける最後の費用』だと思えば、この機会に漏れのないように変更しようと考える方が多いようです」(同)

 ちなみに、実施者がかける費用の平均の自己資金は550.5万円で、自己資金を入れていないのはわずか3.5%だ。

 経済状況が先立つとはいえ、「経済合理性で語る人は少ない」と福澤さんは言う。子どもが独立して家を出ることで空き部屋が増えている。「夫婦にとって住みよい家にしたい」「戸建ての家を子どもに譲り、近くの中古マンションを買ってリフォームして移り住もう」「老人ホームも団塊の世代がすべて入れるほどの余裕はないのでは」などなど、動機はさまざまだが、共通しているのは、余生を満喫し、楽しめる暮らしを演出する前向きな姿勢だ。

「シニアの方はちょっとした不便でも、我慢する傾向にあります。立ち止まって自身の生活を見つめ直してみてほしいです。たとえば、リビングを1階に移したほうが動線がスムーズになることもありますし、寝室とトイレの位置は近くしたほうが便利になります。これまで当たり前だと思っていた廊下が“無駄な空間”になっていたら、その廊下をLDKに取り込むことで、部屋はずいぶんと広くなります」(同)

 では、リノベーションの事例をみてみよう。

 1996年からスタートし、業界の先駆け的存在である住友不動産の「新築そっくりさん」。阪神・淡路大震災をきっかけに、築年数が経過した住宅の耐震性を見直す動きが出ていた中、「地震に強く、安価で、建て替えずに再生」を目指し、“一棟丸ごと再生”のシステムを生み出した。98年にはマンションの丸ごと再生にも進出し、年間7千~8千件の工事を手がけている。解説するのは、新築そっくりさん事業本部戸建第一・第二事業所長の中野誠さん。

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