夫:こっちは準備していった。敷居が高いというから、外から「えー。このたびはー」と大声出そうか。棒高跳びでもするか(笑)。

妻:わたしは敷居のことはどうせ口だけだろうと。それより向こうに行くときのほうが緊張しました。

――「夫のブレーキになってはしないか」。控えめな妻はそう思うこともあるという。だが、夫婦の危機を乗り越え、互いに人生の伴侶として認め合う仲だ。

夫:結婚して僕がちょっと売れた時期があったんですよ。「カカカカ、カケフさん」というCMが当たったりして。そうすると、このひとは自分だけが取り残されるんじゃないかと不安になったみたい。亭主が別の世界に行くんじゃないかって。これはまずいぞと思い、運転免許を取らせ、家から近くの駅まで往復の運転手をやってもらい、スケジュールの管理なんかも任せた。そうすることで夫婦として一体感を保ったんです。

妻:(黙ってうなずく)

夫:半年、1年とやっていくうちに自分の居場所みたいなものを見つけられたのか、安定したんですが。夫婦の最大の危機でしたね。僕はどうやったら売れるか一生懸命で、ようやくこれは、と思いはじめときに、「あなた、お願い、売れないでー!!」ですから(笑)。

妻:ずっと家にいなかったものですから、このひと。

夫:ずっとカミサンを落語の世界に近づけさせなかったのは、きょうの出来がどうのと口出しされるとうるさいですからね。

妻:だから、わたしは寄席に行ったことはないんです。

夫:二人だと会話がない。子供が大きくなってからは2頭の犬が二人の会話を結んでくれていた。それが、去年、立て続けに亡くなって……。

妻:どこかに出かけていくわけでもないですから。

夫:ただ、犬がいなくなって寂しいなと思っていたら、カミサンが野良に餌をやりはじめた。猫はそんなに好きじゃないんだけど、話題ができる。そういう意味で、アレはわが家の招き猫。

妻:まだ餌を与えようとしては、引っかかれているんですよ。それでもこのひと、やめない(笑)。

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