夫:半年くらいかな。まだなでるところまではいかないんですが、アレが来るようになって急に仕事も入りだした。「コネ」という名前はカミサンが付けたんですけどね。逆さにしただけで、大して考えたわけではない。

妻:耳が切ってあるので、避妊処置はされているみたいです。見かけると、このひとはイソイソと餌やりをしに出てくる。それ以外はいつもパソコンに向かって何か書いている。

夫:のめりこんじゃうんですよね。売れていたときは、電車の中でも原稿を書いたりしていましたから。あるとき、六本木で手帳を出して円丈が歩きながらうなっているのを見たとあきれたように言われたけど、僕は噺を作るのが楽しい。そのために噺家になったんですから。

――『円丈落語全集2』に収録されている作品「ぺたりこん」は、社内でダメ人間扱いだった男の手が机に張りつき、とれなくなる話だ。

夫:初演は40年ほど前で、新作落語を作る会をやっていたときに会員が考えてきたのがもと。「こんなくだらないもの」と僕は怒ったんです。しかし机に手がくっついたという設定だけを生かし、全然ちがう話にしたら、えらく評判がよくて円丈の作品に加えた。その後も少しずつパソコンで書き直してはグレードアップさせてきた。

妻:やっているときは邪魔にならないように、わたしは近寄りません。

夫:うちの円生が「新作落語は草花で、枯れていくものだ」と言ったんですが、「ぺたりこん」がそうであるように、新作落語は設定をほんのすこし変えると現代のブラック企業の話になる。それで自選集を出そうとした矢先に出版社がつぶれちゃった。これは自腹でやるしかない。だから家計のやりくりがたいへんなんですよ(笑)。

(聞き手・朝山実)

週刊朝日 2017年11月24日号より抜粋