チャック・ベリー・スタイルのギターも交えたロックンロールの「ワンゴー」や、ブギ・ロック・ナンバーの「ジャッカル」に続いて、アルバムを締めくくるのはフォーク・ロック調の「散歩」だ。カンブリア、デヴォン、ジュラ紀と地球の古生代から宇宙へ、どこまでも歩いていこうと歌われる。

 甲本のめりはりの利いた歌唱表現は説得力を増し、バラエティーに富んだ音楽展開からは表現の幅の広さがうかがえる。真島のギター演奏もリフやリードに個性的な持ち味を発揮している。ベースの小林勝、ドラムの桐田勝治のリズム・コンビも頑丈なだけでなく、ニュアンスに富んだ演奏を披露している。

 スピーディーでアグレッシヴ、ゴリ押しのロックンロールだけでなく、幅広い音楽展開を見せた本作には力みがなく、余裕を感じさせる。それはバンドとしてのスケールの大きさを物語っている。作品、歌唱、演奏、サウンドすべてに個性を持つワン&オンリーとしての存在を、より印象づける作品だ。(音楽評論家・小倉エージ)

●『ラッキー&ヘブン』CD(アリオラ/ソニー・ミュージック BVCL837)
●完全生産限定アナログ盤(同 BVJL28)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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