なぜ、現代の若者は横一列に並びたがるのか? 答えは“小心”?
連載「大センセイの大魂嘆!」
SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機の『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「ちん」。
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わけあって、ママチャリに乗っている。
ママチャリといっても、ただのママチャリではない。アシスト(電動機)つきの高級ママチャリである。
当初、アシストつきなどというものは自転車ではないと思っていたので、購入に猛然と反対した。だってそうでしょう。自転車は自分で転がるからこそ自転車なのであって、モーターの力で転がったりすれば他転車になってしまう。
かつて、二週間かけて東北を一周したこともあるサイクリストにとって、アシストつきは自転車界の外道でしかなかったのである。
ところが妻太郎(妻のこと)は、強硬に購入を主張した。運動が大嫌いな彼女は、昭和君(息子のあだ名)を乗せた重たい自転車なんて運転する自信がないと言うのである。
しかもアシストつき自転車は、普通のママチャリの何倍もするのだ。
「そんなもの必要ない!」
「それじゃあ、保育園のお迎え行けないからねー」
不承不承、購入に同意した。日本人の足腰は弱くなったのだ。いや、自転車にモーターなんかくっつけるから弱くなるのだ。
だが……。
寝返ったと言われるかもしれないが、いや、実際寝返ったのだが、いまや、モーターのついてない自転車なんて考えられないほど、アシスト君が好きになってしまった。昭和君を前かごに乗せた状態でもスイスイ走れるし、坂道で踏ん張る必要もないんである。
もう、絶対に手放せない!
しかし、この自転車にはひとつだけ難点がある。それはベルだ。
ハンドルから手を放さずにベルが鳴らせるようにという配慮だろうが、アシスト君のベルはハンドル一体型の回転式なのである。
音がよくない。チーンと涼しげに響くのではなく、チンと詰まった音がする。いや正確に表現すれば、ちん、である。
