「いろんな役をやってきたからこそ、いろんなトーンで言葉をしゃべれるようになったし、いろんな声も出せるし、いろんな表現手段を持てているんだと思います。ただ、オファーをいただくのは、あの世とこの世の狭間にいるような役が多い傾向にはあるかな。私は、こういう身体でこういう顔だから、宙を飛んでもおかしくないと思われるのかしら(笑)」

 舞台「プライムたちの夜」も、また変わった役どころである。テーマは“人工知能は人間を幸せにするか”。ピュリツァー賞候補にもなった戯曲で、浅丘さんは、若き日の夫に似せたアンドロイドを話し相手に暮らす85歳の女性を演じる。

「舞台の場合、お客様はわざわざお運びくださるわけですから、私はとにかく“何か”をお見せしたい。衣装でもセットでも私の出で立ちでも、何でもいいから”これから何が始まるの?“とお客様の興味をそそるようなものがないとイヤなんです。『やすらぎ~』のときも、私だけ100着近い衣装を作って、フルメイクで通したんですけど、観てくださった女性たちが、私の役に影響されて、お化粧やお洒落を楽しむようになったと聞いて、とても嬉しかったです」

 63年の女優人生で、仕事とプライベート、どちらに重きを置くべきかと迷ったことは一度もないという。

「女優人生以外、何人生も送ってこなかったけれど、後悔も迷いも微塵もない。あっという間でした(笑)」(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2017年11月3日号