我慢しようとすると出てしまうあくび。都市伝説ではなく、科学的に根拠のある現象だという(撮影・鎌田倫子)
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 あくびはなぜ伝染るのか――。その仕組みをひもとく研究が、アメリカの科学雑誌『Current Biology』に掲載された。

「あくびの伝染」は都市伝説のように思われているが、実は30~40年前から科学的検証が行われている分野なのだという。
 研究では、36人の成人の被験者に、ほかの人があくびをする様子を流したビデオを見せて、あくびの回数とあくびをかみ殺す回数を測定。その結果、あくびを見た後にあくびをかみ殺すことはできるものの、あくびそのものをガマンすることは難しいことがわかった。さらに「あくびをガマンするように」と言われるほど、あくびをしたくなる衝動が高まった。

 この研究では、あくびが伝染する詳しい仕組みまでは明らかになっていないが、“反響現象(反響症状)”によって起こると考えられるという。いわき明星大学教養学部教授の大原貴弘さんに、解説をしてもらった。

「反響現象とは自動的に相手のまねをしてしまう現象のこと。口を大きく開けながら息を吸い、しばらく口を開け続けた後、息を吐きながら口を閉じるといった“あくびの典型的なパターン”のプログラムがヒトの脳のなかには組み込まれていて、人のあくびを見るとそのプログラムが発動し、伝染するというのがこの研究での主張です」

 そもそも、あくびはなぜ出るのか。

 大原さんは「脳の温度を下げて、覚醒させるために生じるのではないか、というのが最近の有力な説の一つ」と説明する。あくびをすることで新鮮な空気を取り入れ、脳を冷やす。これによってボーっとしている頭が覚醒するというのだが、大原さんいわく、「ただ、実際にあくびによって覚醒レベルが上がるかどうかについては、まだはっきりしていません」。

 ちなみに、「まわりの空気が薄くなったときに、酸素を取り込むために起こる現象」という説は、実験で否定されているそうだ。

 あくび自体はヒトに限らず、哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類など脊椎動物に共通してみられる。ところが、“あくびが伝染する”という現象は、ヒトと一部の哺乳類にしか見られないことがわかっている。

 研究対象として世界的に注目されるあくびではあるが、会議などで出るとやっぱり困る。予防するにはどうしたらいいのか。

「自発的なあくびの場合は、脳が冷却されると起こりにくいことがわかっています。保冷剤などで頭を冷やすと抑制されます。また、人から見られているという意識もあくびを出にくくさせます」(同)会議では積極的に発言して注目を浴びるというのも一つの手だ。

 一方、先の研究の仮説が正しければ、あくびの伝染は脳に組み込まれたプログラム。それを防ぐには、引き金となる「あくびをしている人を見ないこと」につきるようだ。もちろん、脳が退屈や眠気と感じる会議をしないのが、最も効果的だ。
(本誌・山内リカ)

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