落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「昇進」。

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 21日から3名の新しい真打ちが誕生します。みな私と同時期に前座修業をした仲間。今回はそのお三方を紹介したいと思います。

 まず三木男改め五代目・桂三木助さん。あの『芝浜』を十八番にした名人三代目・三木助の孫で、四代目の甥。趣味はモデルガン収集とアップルパイを焼くこと……という不思議な彼ですが、物腰の柔らかい穏やかな、そして芸に真面目な男です。

 真面目なんですが、大変な偏食家で「なまもの」が食べられません。

「おい、五代目! そんなことでお家芸の『芝浜』ができるのか!? 主人公は魚屋だぞっ!!」と思わなくもありませんが、一生懸命に取り組んでいます。独演会のゲストによんでもらった時、袖で聴いた『芝浜』。真っ直ぐな熱演で良かったです。いや、ホント。

 頑張れー、三木助ー。立派になって俺に仕事いっぱいくれー。頼むー。

 次に柳亭こみちさん。2人のお子さんを抱えるこみちさんはママさん真打ち。一人はまだ乳飲み子です。彼女、よく楽屋の片隅で搾乳しています。お乳を出しきってスッキリするからでしょうか。彼女の落語はそこらの男の噺家よりよほど歯切れがいいのです。女性が男を演じる違和感を、全く感じさせません。

 唄も踊りもうまいし、華やかな芸風で同性のお客さんからの人気も大!

 ご主人は漫才師の宮田昇さん。漫才師と噺家の夫婦というのも珍しい。将来は2人のお子さんに芸を仕込んで、一家で営業に回るのでしょうか。仕事場にかみさんがいるのもキツいでしょうが、頑張れ旦那さん!!

 
 そして、こみちー。その営業に俺も一枚かませてくれー。頼むよー。

 最後は志ん八改め二代目・古今亭志ん五さん。

 亡き初代の師匠の名を継ぐことになりました。

 彼は私より年上の後輩なんですが、人懐っこいがんもどきのような童顔。基本的にいつもヘラヘラしています。「飲みに行く?」と誘って断られたためしがありません。「いいっすねー、ヘラヘラ~」「あっざすー、ヘラヘラ~」「ごちそうさまっすー、ヘラヘラ~」

 生涯独り者かと思いきや、いつの間にか郊外に土地付き・家付きの娘さんを見つけて転がり込みました。かみさんを紹介しろ、と言っても「いやいや、ヘラヘラ~」「まぁまぁ、ヘラヘラ~」と掴み所がありません。

 落語は古典・新作の両刀遣い。噺も人柄のとおり肩の力の抜けた軽やかな落語を聴かせてくれます。

 そういえば二つ目のとき、私は彼と二人会をしてました。彼が会場を押さえるのを忘れて、結局自然消滅したのだった……。「あちゃー、忘れてましたー、じゃまたあらためてー、ヘラヘラ~」。そういう男です。

 おーい、志ん五。今まで俺がおごった分返さなくていいから、継いだ師匠の名前、大きくしろー。ヘラヘラ~。

 この3人が日替わりでトリをつとめる『真打昇進襲名披露興行』。お時間ございましたらぜひお運びください!! 詳しくは落語協会HPをチェック!!

 これだけ宣伝したのだから、昔の悪さは水に流してくれ。お三方。ヘラヘラ~。

週刊朝日 2017年9月22日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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