そんな中、ここのところどうしても気になるのが、女優・土屋太鳳さんです。朝ドラのヒロインを始め、今や日本若手女優陣の筆頭株のひとりとして大活躍の彼女を見る度に、ずっとダブってしまう人がいます。♪十五、十六、十七と、私の人生暗かった……♪ ドスの利いたハスキーボイスで、高度経済成長期とともにあったうらぶれた日本人の心を唄い、一世を風靡した『怨歌の女王・藤圭子』です。『くっきり美人』を何度も太字でなぞったような顔立ちはもちろんのこと、あの溌剌とした笑顔の向こうに感じる、それだけでは終わらない情念の陰もそっくりです。もはやこれは造形の問題ではなく、何か精神的な類似性もあるのでは?と気をつけて観察していたある日、その答えを目の当たりにし唸りました。それは昨年大晦日の紅白歌合戦。郷ひろみさんが、カラオケの定番バラード『言えないよ』を歌い上げる傍らで、激しくコンテンポラリーな舞いを全身全霊で踊る土屋太鳳の姿が! これだ! 何でも彼女、日本女子体育大学で舞踊を学ぶ体育大生だそうで。この前衛ポテンシャルの高さこそ、彼女の中に宿る藤圭子的情念だったのです。

 それから半年が過ぎ、先日さらにとんでもない光景に遭遇しました。藤圭子の娘である宇多田ヒカルが、自身の新曲のMVの中で『土屋太鳳ばりのコンテンポラリー・ダンス』を披露しているではありませんか! 母・藤圭子のDNA(情念)が、土屋太鳳を介して、娘・宇多田ヒカルに受け継がれている……。私はそう解釈しました。今まで頑なに踊らずに歌い続けてきた宇多田さんが、ここへ来て極めて躍動性あふれる身体表現に打って出たのも不思議ではありますが、とにかく『藤圭子─土屋太鳳─宇多田ヒカル』という時空を超えた三角関係が相成ったことだけは確かです。まさにファンタジー。

 いつか名曲『圭子の夢は夜ひらく』に合わせて、土屋太鳳と宇多田ヒカルのコラボレーション・コンテンポラリー・ダンスが観られる日を願って。いっそ、東京五輪の開会式の目玉としていかがでしょうか?

週刊朝日  2017年9月15日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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