プリンス(写真:Larry Williams)プリンス(写真:Larry Williams)
プリンス&ザ・レヴォリューション『パープル・レイン DELUXE』(ワーナーミュージック WPCR―17821/2)プリンス&ザ・レヴォリューション『パープル・レイン DELUXE』(ワーナーミュージック WPCR―17821/2)
プリンス&ザ・レヴォリューション『パープル・レイン DELUXE―EXPANDED EDITION』(同 WPZR―30757/60)
 昨年4月21日のプリンス急逝のニュースは世界中に衝撃をもたらした。訃報が伝わると、多くのミュージシャンのみならず、オバマ前米大統領も追悼の意を表した。その後の記事で、映画『パープル・レイン』が再上映されたほか、ブルース・スプリングスティーンやビヨンセがコンサートで「パープル・レイン」をカバーしたことを知った。プリンスといえば「パープル・レイン」なのだ。

 プリンスがアルバム『フォー・ユー』でデビューしたのは1978年。私のプリンス初体験もそのアルバムだ。続く『愛のペガサス』では、胸毛が覗く上半身裸姿のカバー写真に驚きつつ、独特のファルセット・ヴォイス、シンセやキーボード、ギターのロック・センスに打ちのめされた。

『ダーティ・マインド』のジャケットでは黒いビキニ・パンツ姿を披露。『戦慄の貴公子』に封入されたポスターでも、シャワー・ルームでビキニ・パンツ姿でポーズをとっていた。エスカレートしていく露出趣味に目を見張りながら、自作自演によるソウル/R&B、ファンクにロックやポップ・センスが混在した斬新な音楽性に惹かれたものだ。もっとも、後期には関心をなくしたこともあったが。

 そんな私がベスト・アルバムを選ぶとすれば『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』に『パレード』。もう1枚挙げるなら、やはり映画『パープル・レイン』のサントラ盤だ。プリンスがザ・レヴォリューションを率いて制作した最初のアルバムであり、多彩で幅広い音楽性、しかも革新性とポップな側面を併せ持った傑作である。

 このほど発表された『パープル・レイン DELUXE』(CD2枚組)は、生前にプリンス自身の監修でリマスタリングされ、2014年に発表を予告されながら延期されていた映画公開30周年記念盤と、未発表音源などを収録している。

 まず、リマスタリングされた『パープル・レイン』の鮮明な音像に驚いた。プリンスにとって初の全米ナンバー1・シングルとなった「ビートに抱かれて」。ソウル/ファンク作品では不可欠なベースはなし! パーカッシヴなリズムとシンセサイザーをバックにした簡素で意表を突く画期的な構成や、起伏のないメロディーながら、プリンスの生々しい歌に耳を惹き付けられたものだ。

 もう1曲、ブギをベースにハード・ロック的なセンスを加味した「レッツ・ゴー・クレイジー」もナンバー1・ヒットに。さらに「パープル・レイン」「ダイ・フォー・ユー」「テイク・ミー・ウィズ・ユー」と、本作から5曲ものヒットが生まれた。もちろん、聴きものはそれらに限らない。

 
 今回の目玉は、未発表作品を収録したディスク2の『From The Vault & Previously Unrelated』だ。プリンスは眠る間も惜しんで創作活動を続けていたので、多数の未発表作品が存在するという。後、法定管財人によりドリルでこじ開けられた金庫からは膨大な未発表音源のマスター・テープが見つかった。今後100年間、毎年、アルバムを発表し続けることが可能なほどの量だったという。

 今回発表された11曲のうち、6曲が初めて発表されるレア音源という。

 幕開けは、幼馴染みでバンドの一員でもあったアンドレ・シモンに提供した「ダンス・エレクトリック」。11分にも及ぶテクノ・ファンク・ナンバーで、一気に聴かせる。

 サントラ盤に短縮版が収録されていた「コンピューター・ブルー」も、12分に及ぶ“ホールウェイ・スピーチ・ヴァージョン”。その途中に挿入されていた「ファーザーズ・ソング」もフル・ヴァージョンが収録された。これはプリンスの父、ジョン・L・ネルソンの作曲で、父への思いを込めた演奏に心打たれる。

 ソウル・バラードの「エレクトリック・インターコース」のスタジオ・ヴァージョンは、今回初めて陽の目を見た作品のひとつ。ファルセットによるヴォーカルに聞き惚れる味わい深い佳曲だ。リサ・コールマンのヴォーカルと華麗なストリングスを配した「アワ・デスティニー」にもうっとりとなる。プリンスの幅広い音楽性を物語る作品だ。

 一番の聴きものは「ウィ・キャン・F**K」。サントラ盤の『グラフィテイ・ブリッジ』に収録され、ジョージ・クリントンのヴォーカルがフィーチャーされていた作品のオリジナル・ヴァージョン。悩まし気に“WE CAN F**K”と4文字言葉を連発するあたり、まさにプリンスの本領発揮だ。
 同時発売の『パープル・レイン DELUXE-EXPANDED EDITION』は、さらにCD1枚とDVD1枚が加わる。

 ディスク3には、シングル・ヴァージョンやシングルのB面作品を集めた。DVDには、かつて映像化されたシラキュースのキャリアー・ドームでのライヴ(1985年3月30日)を収録。画像が粗いのは残念だが、絶妙なマイク・ワークやスプリット(股開き)などパフォーマーぶりを堪能できる。

 DVDの見所は「パープル・レイン」の20分近い熱演。ウェンディ・メルヴォワンのギターをフィーチャーした長いイントロに続き、ギターを手にしたプリンスが登場。その熱唱や繰り返されるタイトルのコール&レスポンス、プリンスの鮮やかなギター・ワーク。次第に盛り上がっていくドラマチックな展開に興奮を覚える。改めて「パープル・レイン」はプリンスの代表作であるだけでなく、ロック/ポピュラー・ミュージック史に残る名作だと思った。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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