【六本木中国飯店・フカヒレの姿煮】生前は夫婦でよく訪れ、フカヒレの姿煮8000円(税・サ別)や牛肉とピーマンの細切り炒め、小エビと卵白の炒めなどを注文した。<六本木 中国飯店>東京都港区西麻布1-1-5 月~土11:30〜15:00、17:00〜翌朝4:00 日祝11:30〜15:00、17:00〜23:00 休みなし(撮影/倉田貴志)
【六本木中国飯店・フカヒレの姿煮】生前は夫婦でよく訪れ、フカヒレの姿煮8000円(税・サ別)や牛肉とピーマンの細切り炒め、小エビと卵白の炒めなどを注文した。<六本木 中国飯店>東京都港区西麻布1-1-5 月~土11:30〜15:00、17:00〜翌朝4:00 日祝11:30〜15:00、17:00〜23:00 休みなし(撮影/倉田貴志)
阿川弘之(1920―2015)広島県生まれ。著書に『春の城』(読売文学賞)、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『志賀直哉』(野間文芸賞、毎日出版文化賞)など
<br /> /阿川佐和子 東京都生まれ。著書に『ウメ子』(坪田譲治文学賞)、『婚約のあとで』(島清恋愛文学賞)、『聞く力』など。最新刊は『強父論』
阿川弘之(1920―2015)広島県生まれ。著書に『春の城』(読売文学賞)、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『志賀直哉』(野間文芸賞、毎日出版文化賞)など
 /阿川佐和子 東京都生まれ。著書に『ウメ子』(坪田譲治文学賞)、『婚約のあとで』(島清恋愛文学賞)、『聞く力』など。最新刊は『強父論』
【すし屋の磯勘・大トロの握りと鰈の唐揚げ】当時と変わらず五十嵐均さんが、今でも寿司を握る。大トロ800円、コハダ400円、ウニ800円、鰈の唐揚げ2500円、蛸のやわらか煮1500円(税別)<すし屋の磯勘>東京都世田谷区松原2-13-10 水〜金11:30〜13:30、17:00〜22:30 土日祝11:30〜14:00、17:00〜22:30 休みは月、火(撮影/写真部・岸本絢)
【すし屋の磯勘・大トロの握りと鰈の唐揚げ】当時と変わらず五十嵐均さんが、今でも寿司を握る。大トロ800円、コハダ400円、ウニ800円、鰈の唐揚げ2500円、蛸のやわらか煮1500円(税別)<すし屋の磯勘>東京都世田谷区松原2-13-10 水〜金11:30〜13:30、17:00〜22:30 土日祝11:30〜14:00、17:00〜22:30 休みは月、火(撮影/写真部・岸本絢)
北杜夫(1927―2011)東京都生まれ。「夜と霧の隅で」で芥川賞受賞。著書に『楡家の人びと』(毎日出版文化賞)、『輝ける碧き空の下で』(日本文学大賞)など /斎藤由香
<br />東京都生まれ。著書に『猛女とよばれた淑女─祖母・齋藤輝子の生き方─』『窓際OLトホホな朝ウフフの夜』など(写真提供=新潮社)
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北杜夫(1927―2011)東京都生まれ。「夜と霧の隅で」で芥川賞受賞。著書に『楡家の人びと』(毎日出版文化賞)、『輝ける碧き空の下で』(日本文学大賞)など /斎藤由香
東京都生まれ。著書に『猛女とよばれた淑女─祖母・齋藤輝子の生き方─』『窓際OLトホホな朝ウフフの夜』など(写真提供=新潮社)

 6月18日は「父の日」。今は亡き著名作家たちが愛した店の名物料理の思い出を、娘たちが語ってくれた。
          
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【阿川弘之&阿川佐和子】

 父は常々「人生は短い。食べる回数は限られている。だから一食たりとも不味いものは食べたくない」と言っていました。
たまに口に合わないものを食べると、「貴重な一食を損した」って、機嫌が悪くなる。

 晩年に入院してからも、「ヤギのチーズ」とか「ちらし寿司」とか、「鰻の蒲焼」とか具体的に食べたいものを指示するんです。

 父が元気な頃から通っていた気に入りの店の料理を、いくつか差し入れしましたが、その中でも、中国飯店の「フカヒレの姿煮」は父の大好物でした。プラスチック容器に入れて持っていくと、うれしそうに食べてくれて。同じ店の小エビと卵白の炒めものや、チンジャオロースーも持っていきました。

 ある日、入院中に病室に電磁調理器や材料を持ち込んで、その場ですき焼きを作って食べさせたところ、父が大変に気に入って。それ以来、亡くなる直前まで毎週のようにすき焼きを作りに通いました。それは私の思いつきだったんですが、あんなに喜ぶとは思いませんでした。

 最後の最後まで食い意地が張っていたことについては、いかにも父らしかったと思います。やはり食べたい気持ちがあるうちは、なるべく望みを叶えてあげたいと思ったものです。

 最後に「トロのいいのを食いたいね。鯛のサシミもいいな」と呟いたので、慌てて用意して持っていったのですが、大して口にすることができず、その翌日に息を引きとりました。それがちょっと心残りですね

【北杜夫&斎藤由香】

 父との外食というと、近所のお寿司屋さん「磯勘」がまっさきに頭に浮かびます。
父は水産庁のマグロ調査船に船医として乗った時の事を『どくとるマンボウ航海記』に書いていますが、船の中では、毎日のように釣りたてのマグロが食卓に上っていたようで、大のトロ好き。でもワサビはさすがになかったようで、同書に「ただひとつ残念なことに、船には本物のワサビがなかったことで、もしいくらかのワサビを入手できるのだったら、私は魂の二つや三つ平気で売り飛とばしてしまったろう」という一文が出てきます。

 店ではまず大トロを食べて、鰈の唐揚げや白身の刺身、蛸をやわらかく煮たものなどの酒の肴を頼んでから、ウニ、イクラ、シメサバなど数種類のお寿司を味わって、また最後に大トロを頼んでいました。
磯勘の目の前に菅原神社があり、秋祭りの日にお寿司を食べた後、父と屋台でヨーヨーを釣ったのが、昨日のように思い出されます。

 ちなみに、こちらのお店で、政治家や作家をカウンターで見かけることがあります。わざわざ都内からタクシーで来られるのでしょうね。隠れた名店だと思います。(本誌・工藤早春)

週刊朝日  6月23日号より加筆