ノーパン喫茶は新風営法が施行される昭和60年2月の直前には800軒あったと言われる。日本の津々浦々、静かにコーヒーを飲みながらも目をキョロキョロ泳がせていた男たちの姿が脳裏に浮かんでくる。

 そういえば、「のぞき部屋」がオープンしたのも昭和55年ごろだ。東京・渋谷に実験劇場ができ、新宿・歌舞伎町を中心に増えた。

 あまり詳しくは書けないが、個室が10部屋くらい取り囲むように並んでおり、マジックミラーになっている小窓から中に設置されたステージをのぞく。料金は20~30分で3千円ほど。これもまた安いのか、高いのかはわからない。客室に電話があり、ステージにいる女性と会話ができたという。ストリップ劇場には客同士の不思議な一体感みたいなものがあったが、「のぞき部屋」は完全に個の空間だったのである。その意味では時代を先取りした風俗と言える。

 すっかり前置きが長くなった──。冒頭に述べたように、人間は妄想する動物である。その妄想を楽しんでしまう動物でもある。それを商売にしたのがノーパン喫茶であり、今回のお題である「秘宝館」だった。

 秘宝館は性風俗や人間の性、動物の性に関する古今東西の文物や等身大の人形、絵画などを収蔵した娯楽施設で、「性のテーマパーク」と言っていい。男根を模したご神体の神輿(みこし)など、日本の各地に根づく土俗的な文物も目を引いた。

 中でも注目を集めたのが北海道は札幌、その奥座敷にあたる定山渓温泉の「北海道秘宝館」だった。開館はまさに昭和55年。男性や女性の性器をかたどったご神体のレプリカや、まるで本物かと見間違ってしまう等身大のろう人形などが展示され「大人の遊艶(ゆうえん)地」とも呼ばれた。

 当時の定山渓温泉は団体旅行の男性客が多かった。温泉にゆっくりつかったあとの遊びといえば、芸者を呼んでの宴会。街中の飲み屋やスナックに繰り出してカラオケを楽しむ人も多かった。もちろんストリップ劇場もあり、踊り子たちの秘技秘芸が繰り広げられる。これまた詳しくは書けないが、観客参加型のハードな出し物も人気を呼んでいた。

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