男性の年収は当時800万円。好きだった競馬をやめられず、この地銀はわずか3カ月間でさらに計500万円も上乗せして貸し込んだ。他の銀行も続々と貸し付けを増やし、借金はたちまち2600万円超に。男性の個人再生手続きをした三上理弁護士は「銀行が返済能力をまともに審査したとは思えない」と話す。

 朝日新聞が全国銀行協会の正会員120行にアンケートしたところ、計80行が年収の3分の1超を貸し、うち19行が年収を超えて貸すことがあると答えた。

 では、消費者金融と同様に、銀行も貸付額を年収の3分の1以下に規制されると困るのか。規制の是非を問うと、最も多い答えは「わからない」で44行だった。

 生活費や医療費が必要な低所得者や高齢者にも、お金を貸すときは高金利だ。ギャンブルなど遊興費に充てる借り手もいる。そんな実態も踏まえ、「貸し手としての責任を果たしていない」との匿名コメントを寄せた銀行もあった。

 実は、年収の3分の1以下しか貸せない消費者金融などの貸金業者も、カードローンを裏で支える立役者。たいていは保証がつくことが利用条件のため、貸金業者の審査を受ける必要がある。銀行は保証料を貸金業者に払い、利用者が返せないと貸金業者が肩代わりする。銀行は損をせず、貸金業者も収益を得られる。

 急拡大したローンに社会的な批判が高まり、全銀協は貸しすぎを防ぐよう会員行に呼びかけている。金融庁は、今のところ規制を強化する気はなさそうで、業界の動きを見守るのみだ。

 東北地方の金融機関で働く営業マンは最近、上司から新たな「ノルマ」を割り当てられた。カードローン口座の新規契約を倍増させることだ。各支店で発破をかけられているという。

「ふつうの人は、わざわざカードローンの口座を作ろうなんて思わないでしょ?本気で契約を取るには、借金を抱える人をリサーチして売り込むしかない。良心の呵責はありますが、何しろノルマがあるので……」

 借りるのは簡単でも、借金地獄から抜け出すのは難しい。自己破産した人たちの姿が、そのことを身をもって示している。

週刊朝日  2017年6月2日号