東京都在住の平田達夫さん(仮名・62歳)は、60歳を過ぎて便秘がひどくなった。かかりつけ医は便を水分で軟らかくする非刺激性の下剤を処方したが、服用してもスッキリしない。再び相談すると、大腸粘膜に作用して蠕動(ぜんどう)運動を促す刺激性の下剤を処方された。ところが今度は下痢がひどくなり、中島医師の外来を受診。処方された「潤腸湯」を飲み始めると、1カ月ほどで快便を得られるようになった。

 今年3月、「リナクロチド(商品名リンゼス)」が発売された。現段階では便秘型過敏性腸症候群が対象だが、2012年承認の「ルビプロストン(商品名アミティーザ)」と並んでエビデンス(科学的根拠)レベルが高い。欧米ではすでにこのレベルの高い薬が多く承認されており、日本もようやく、という状況だ。

「便秘は、腹痛、腹部膨満感、残便感など症状がいくつもあります。患者の言葉を“翻訳”し、最も困っている症状をくみ上げなくてはなりません。漢方薬や新薬など選択肢が増えることは、治療の大きな武器になるでしょう」(同)

 同じくガイドライン作成メンバーで、指扇病院排便機能センター長の味村俊樹医師のもとには、便秘で悩む患者が全国から来る。彼らが求めているのは、「客観的な評価による原因に応じた便秘治療」だ。

 診療では、問診に加えて「PAC-QOL」日本語版を使う。患者が回答・記入することでQOLを評価するもので、受診ごとに回答して治療効果を判定し、必要に応じて大腸内視鏡検査、大腸通過時間検査や排便造影検査などもおこなう。

「糖尿病や高血圧なども、生活習慣の改善や初期の薬物療法で改善しない場合は、原因究明のために精密検査をします。便秘診療も同じです」(味村医師)

 客観的な評価ができたら、次は原因だ。

 便秘は、大きく二つのタイプに分けられる。便が長い間大腸にとどまり、水分が少なくなって便が硬くなる「排便回数減少型」と、大腸の蠕動運動は正常で便は直腸まで来るが、そこからうまく出せない「排便困難型」だ。この二つはそれぞれ、さらに二つのタイプに分けられる。

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