ジャーナリストの田原総一朗氏は、今後のアメリカの対北朝鮮政策を占う。

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 トランプ政権の外交を担うティラーソン国務長官が3月15日に来日した。日、韓、中と歴訪したのだが、岸田外務大臣との会談でティラーソン氏は、過去20年間のアメリカの北朝鮮政策は失敗だったと述べ、見直しを表明した。高まる脅威に対処するために、新たなアプローチが必要だと強調したのである。金正恩政権になってから北朝鮮は核実験を3回、ミサイルを70発以上発射している。

 2016年にはSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を含む5種類のミサイル20発以上を発射し、金正恩氏は17年元日の演説でICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験が最終段階にあると述べた。アメリカ本土を射程圏内に収めるICBMの試射を事実上、予告したのである。

 そして2月12日、安倍晋三首相がトランプ大統領の別荘で会談している最中に、北朝鮮が新たな弾道ミサイルを発射したという情報が入った。この「北極星2型」は従来の液体燃料を注入するパターンとは違っていて、注入作業のいらない固体燃料を使用していると見られる。いつでもどこからでも発射できるわけだ。この「北極星2型」について、元公安調査庁調査第2部長の菅沼光弘氏は「この発射実験が意味するものは、北朝鮮がついにICBMに手をかけたという一大事だ」と語っている。

 北朝鮮は3月6日にも、4発のミサイルを同時発射した。3発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に極めて正確に着弾させている。そしてこの4発のミサイルは、いずれも在日米軍基地を狙ったものだという。

 実は私はイラク戦争が勃発する2カ月前にイラクのバグダッドに行った。フセイン大統領にインタビューするためだった。だが、バグダッドに着いたらフセイン側から、田原たちの行動はすべてCIAが掴んでいて、フセインに会った瞬間に爆撃されるので、フセインには会わせられない、その代わり副大統領のラマダンに存分にインタビューしてくれといわれた。そのラマダンが私に訴えた。「アメリカはフセインが大量破壊兵器、つまり核兵器を隠し持っているから攻撃すると宣言した。だが、残念ながら我々は核兵器を持っていない。だから攻撃される。核兵器を持っていたら攻撃できない」と。

 
 北朝鮮が核実験を繰り返したり、ミサイルを繰り返し発射して精度を上げているのも、アメリカを攻撃するためではなく、アメリカに攻撃されないためであろう。だが、そのために、どれほど核兵器を持ち、ICBMを持とうとしているのか。トランプ大統領は「もう限度を超えた。やるしかない」と強調している。

 だが、アメリカが北朝鮮を真っ向から攻撃するのは、中国が強く反対している。中国にとって悪夢は北朝鮮が崩壊して、朝鮮半島が韓国によって統一されることである。北朝鮮という存在が必要なのだ。だが、その中国も金正恩氏には困惑している。金正恩氏は自分の義理の叔父であり、中国との強いパイプがあった張成沢氏を処刑した。そればかりでなく側近と見られていた高官たちを次々に処刑、逆に暗殺される危険性もある。金正恩氏が暗殺されて、北朝鮮が混乱するのも困るのだ。そこでトランプ政権内では、中国と組んで混乱させないかたちで金正恩氏を取り除く、つまりレジーム・チェンジが図られている、という情報もある。そんなとき、4月6、7日に中国の習近平主席が訪米する。さて、どんなことが話し合われるのだろうか。

週刊朝日 2017年4月14日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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