妻:今でもそうだね(笑)。

夫:まあもともと、うちはちょっと変わっているんです。父は競輪の予想屋で、母はプロのダンサーをしながら書道教室で教えてた人ですから。「勉強しろ」と言われたこともないし。

妻:出会って半年ほどして、ようやく私もそんな彼のキャラに慣れてきたんです。でも付き合いだして1年後に、彼が急に「会社を辞める」と言いだして……。

夫:母の実家が家を建て、そのお祝いに母が襖(ふすま)に書を書いたんです。それを見て初めて感動して、僕も書道熱が復活してきた。

妻:同僚の名前を書いてあげたら、感動されたんだよね。

夫:「いままで自分の名前が嫌いだったけど、初めて好きになれた」って言ってくれた。そのとき、「パソコンフォントじゃなく、手書きで名前を書いた名刺を作って、ネットで販売したらいいじゃん!」って思いついちゃった。

妻:「世界中に60億人、日本人だけでも1億人いる。早く会社を辞めて書き始めないと、間に合わない!」って。あまりの剣幕に反対もできませんでした。

夫:「1人100円で書いても100億円? 大もうけだ!」って。で、2000年に会社を辞めるんですが、そんなにうまくいくわけはないんですよ。注文はこないし、貯金はどんどん減っていくし。

妻:周囲には「別れたほうがいい」って散々言われました(笑)。

――01年、夫はストリートミュージシャンから発想を得て、路上で書を書き始める。そのパフォーマンスが評判になり、ファンが増えていった。

夫:イベントにも呼ばれ、仕事も徐々に増え、書道教室の生徒さんも増えて、名刺の注文も増えていった。

妻:でもあのころ、受注した名刺は自宅のプリンターで刷って、私がカッターで切っていたんです!

夫:印刷所に頼むお金もないし、墨の色の微調整は任せられないから。

妻:ものすごく大変だった。いま考えると「何をやってたんだろう……」って。

夫:でも僕の将来性を見越して、結婚してくれたんでしょ?

妻:将来性(笑)。そうだね。独立して2、3年たって「あ、イケるかも」と思った。「意外と食べていく道があるかも」って。

夫:わっはっは。

※「『調子に乗りすぎ』武田双雲をたしなめる唯一の存在は妻」へつづく

週刊朝日 2017年4月7日号より抜粋