ライブイベントなどに合わせ、サークル内でバンドを組み活動した。次第に、ほかのサークルとのつながりも広がる。なかでも親しくなったのが、サークル「トラベリングライト」に所属していた西寺郷太だった。

 学食でバイトしていた土岐に、西寺が「MMTだよね?」と声をかけたのがきっかけで親しくなった。「郷太さんはカツカレーばかり頼むんです。仲良くなってからは気持ち多めにルーをかけたりして(笑)」。西寺のバンド「ノーナ・リーヴス」のライブにも通った。

「同じ早稲田の学生バンドだったけれど、ノーナは別格。頭一つ抜けていた」

 ずっとギターをやっていた土岐だったが、その声をサークルの先輩から評価され、バンド「Cymbals」にボーカルとして加入。就職するかどうか悩んだ末にプロの道へ。ノーナから2年遅れてメジャーデビューを果たした。同じ時期には、二文を卒業した堀込高樹が結成した「キリンジ(現KIRINJI)」もデビューした。

 90年代初めから半ば、都の西北のキャンパスで音楽に青春をかけた早大生たち。渋谷系の流行が去った後の音楽シーンで、彼らが今に続くポップミュージックのストリームを牽引した。そう言っても過言ではない。

 学生時代、音楽仲間と「自分たちで音楽シーンを作っていきたいね」と熱く語り合っていたという土岐は、若き日をこう振り返る。「早稲田には面白い人がとにかくたくさんいた。モラトリアムの時間のなかで、多彩で多様な世界に触れられたのは人生の宝です」

 杉にとっても、キャンパスでの出会い、思い出は、かけがえのない財産に。

「チャラいと言われた音楽をやっていた僕でも、居心地がよかった。サークルの連中とは今もよく飲んだり、一緒に演奏したり。絆が深いのは慶應ならではかな」

 そして、二人はくしくもこう口をそろえた。

「ひたむきに音楽と向き合い、同じ気持ちでつながった仲間と過ごした大学での濃密な時間があった。だから今も音楽を続けている」

週刊朝日 2017年3月31日号