夫:まず、絶句(笑)。で、ようやく口を開いたと思ったら「愛人じゃだめなの?」。今度はこっちが仰天ですよ。まさか親の口から「愛人」なんて言葉が出るとは思ってもみなかった。

――劇団内での恋愛は禁止。これは妻が定めたルールだった。だから二人の交際は極秘。だが、マスコミがかぎつけて……。

妻:普段から団員に言ってたんです。恋愛は禁止。結婚するならいいよって。

夫:それで早々に婚姻届は出したんだけど、公演も近づいてたし、内緒にしてたんですよ。そうしたら、どこから漏れたのか、マスコミがやってきて。

妻:すぐ近くに筒井道隆さんが住んでたんです。帰ると記者がたくさん詰めかけてるので「ありゃー。筒井さん何かやらかした?」って思ったら、私を待ち構えてる人たちだった(笑)。

夫:明日の新聞には載せますって言われて、その前には劇団に発表しなきゃ、と。本番1週間ほど前の一番忙しいときだったのに。

妻:みんな徹夜続きで、ぼろぼろになりながら、稽古場で作業してたんだよね。一番年長の俳優から発表してもらったんだけど、みんなの反応がおかしくてねー。

夫:「何? 何? どういうこと?」って騒ぐやつやら、「あー。おかしいと思ったんだよー」って言うのやら。特に僕ら男性の団員からすると、女性の座長は憧(あこが)れの対象でもあって。疑似恋愛というか、マドンナ的なところもありましたから。

妻:実際、その後辞めていった人もいたもんね。

夫:まあ、衝撃だったとは思います。

 それまで僕は家賃1万7千円のアパートに住んでたんです。それも3カ月も滞納して。大家さんに「結婚するんです」って言ったら「ええーっ?」って。そりゃそうですよね。1万7千円が払えないやつが結婚なんて。

妻:で、私のマンションで暮らすようになって。

夫:そのころの僕は何にもできませんでした。みそ汁の作り方さえ知らなかった。相変わらず経済力もない。あまりの格差に落ち込みましたね。少しでもイーブンな関係でいるために、なんとかしなくちゃとは思うんだけど、プライドが邪魔して気持ちだけが空回り。今では朝ごはん作って出す、ぐらいはしますけど。

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