――そうそうたる顔ぶれから「奥さんを貸してほしい」

夫:あるとき、二人で外で食事をしていたら、友人がやってきましてね。「ちょっと、あんたんとこの奥さんを貸してほしい」

妻:てっきり、マージャンか何かでメンツが足りないのかと思って、どうぞどうぞ、って言ったら……。

夫:参院選に出てほしいと。福田赳夫先生が要請なさってるって言うんです。

妻:これには、主人の両親も大反対。歌舞伎俳優の妻が俳優をしているだけでも異例なのに、政治だなんて。

夫:さすがにねえ。

妻:断ったんですが、先様はどうしても、とおっしゃる。ご両親はこちらで説得しますから、って。それで、紀尾井町の料亭で一席設けてくださった。

夫:座敷に、福田赳夫総理、大平正芳自民党幹事長、安倍晋太郎先生、竹下登先生が並んでらっしゃった。大平先生なんて、モーニングを着こんでらした。

妻:義理の父が人間国宝でしたから、威儀を正してくださった。その大平先生が、座布団をさっと外して、「次の参院選に、お宅のお嫁さんを貸していただきたい」と頭を下げた。

夫:それには私の両親も、しばらく黙ってましたね。

妻:で、やっと出た言葉が、「こんなんで、よろしかったらどうぞ」。こんなん、って!って。あんなに反対してたのに。

夫:交渉は難航するだろうと思ってただけに、先生方は拍子抜けしたような顔してましたよ。

妻:義父は明治生まれですからね。一番偉いのは天皇陛下。次が富士山(笑)。3番目が総理大臣、っていう人だったの。その総理大臣が頼んでるのだから、と。でもそれに続いた言葉がまたひどかった。

夫:「女の人でも選挙に出られますのんか?」って。大笑いですよ。

妻:それで、司会をやっていた「3時のあなた」で記者会見して、出馬を発表したんです。悪いことに、それが4月1日だったの! 記者から「今日はエープリルフールですが……?」って聞かれちゃった(笑)。

週刊朝日 2017年1月6-13日号