落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「解散」。

*  *  *

 いつも独りで高座に上がってる噺家からしてみると「解散」って面倒くさいだろうなと思う。「離婚結婚の何十倍も時間と労力を使う」と聞いたことがあるが、「解散」も同じだろうか。

 噺家は独りだが、何人もの登場人物を演じる。お馴染みなところで、さん・八っつぁん・大家さん・横丁のご隠居さん・与太郎。のべつ顔を合わせる5人は、言わば落語の国の超人気ユニットだ。

 ところが「もう解散しよう!」なんてことを誰かが言いだすと噺の幕開けで……。

大家「今日集まってもらったのは他じゃない。実は……そろそろ我々もそれぞれの道を歩んだらどうかと思うんだ……」

熊「それって……解散? 何でよっ!? いーじゃん、このままで! なぁ、八公?」

八「仕方ないんじゃないかな」

熊「何でだよっ!?」

八「前から思ってたけど……キャラかぶってんだよっ! 俺とお前っ! 同じ職人だし。いろんな落語出てるけど、どっちがどっちだか分からないって言われるし!!」

熊「でも、俺、暮れは『芝浜』があるから……」

八「それも腹立つんだよ! 何でお前だけ人情噺の主役張ってんだよ!」

大家「まぁまぁ。私もご隠居さんと若干のキャラかぶりを気にしてるところでね……」

隠居「……あ、それでスタッフにあんなコト漏らしてたんだ」

大家「!? あんなコト!って?」

 
隠居「『どうせ隠居は先が長くないから、そのうち俺も大家のまま、ご意見番的なポジションを求められるようになって忙しくなるよ(笑)。まとまった金が入ったら豊洲にマンション買ってあげる』ってメイクさん口説いてたらしいじゃないかっ!! 与太郎に聞いたんだよっ!! なぁ? 与太さん?」

与太郎「うん! メイクさんが『これ絶対内緒の話なんですけどね』って教えてくれたの!」

大家「うるさいっ、馬鹿っ! ろくに店賃も入れないくせに余計なコトをペラペラと!」

与太郎「あたいは別に解散でもいいよぅ。最近はコメンテーターの仕事も増えてきたし。率直な切り口のコメントが評判いいみたい」

八「何も考えてないだけだろ!!」

大家「それはそうと、ご隠居さん……糊屋の婆さんとの一件は片付いたんでしょうね?」

隠居「えっ(焦)……?」

八・熊・与太郎「なになにっ!?」

大家「お前たち、知らないのか?この人、20年前から糊屋の婆さんといい仲なんだよ! 妻子がある身でありながら!!」

八・熊・与太郎「まじか!? ゲスいなーっ!!」

隠居「実は……来週、記者会見……」

全員「は!?」

隠居「写真、撮られました……実家に連れていったところを」

全員「アホかっ!? 実家って!! 解散どころじゃないじゃんっ!!」

隠居「(泣)……とりあえず、皆さんにはご迷惑かけますっ!!(土下座)」

 ということで、ラクゴスターズ(仮)は解散前に無期限活動休止になりました。充電期間にメンバーの人間関係が修復されるとよいのですが……。ファンのみんなが待ってます。早く帰ってきてね。

週刊朝日 2016年12月30日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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