北村氏は「家族手当がなくなると、家計への打撃が大きい。結局は夫の扶養の枠内で働こうとする女性が多く、簡単には就労拡大に結びつきません」とみる。
もう一つの壁として指摘するのが妻の社会保険料負担。妻が稼ぎを150万円に増やすと、社会保険料も約17万円から23万円に増える。所得税と住民税もアップし、妻の手取りは約122万円。それほど家計は潤わない。家族手当がなくなれば、恩恵はさらに薄まる。
社会保険でも10月から新たな壁ができた。週20時間以上働き、同じ職場に1年以上勤める見込みなどの条件を満たす人は、年収106万円以上で厚生年金や健康保険に入る。
働く女性は今回の見直しをどう受け止めるのか。
人材派遣会社で週4日働く女性(33)は、配偶者控除の範囲内で働いている。「社会保険料を払うと手取りが減り、損する。106万円を超えないよう、1日だけ1時間少なく働き、調整しています」という。
会社員の夫(41)と長男(5)の3人家族。子が小さいうちは一緒に過ごしたいから、午後4時には保育園へ迎えに行く。長時間働くことを考えるのは、小学生にあがるときだという。
政府・与党は当初、配偶者控除の廃止も考えた。最終的に基準を150万円に見直すことで決着したが、なぜこの金額なのか。
時給1千円で1日6時間、週5日間働いた場合の年収を144万円と試算。150万円ならば大半のパートが恩恵を受けられ、働く時間も増えると期待する。
一方で、人材サービスのビースタイル社(東京都)「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長は「150万円の水準まで働く時間を増やすならば、フルタイムの正社員で働きたいと思う人もいる」と話す。
総研は11月、控除の見直しによる影響調査をまとめた。仮に控除枠が廃止されても、約5割は「働き方は変わらないと思う」と回答。「今までより多く働くことになると思う」は約3割だった。
「長時間働きたくても、育児や介護の負担が大きい」
「女性が働きやすくなるには時間や日数の方が大切」
回答者からこんな声があがり、女性の労働を左右する条件は、税や社会保険以外にも数多いとわかる。
ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、制度改正に振り回されるのではなく、ライフプランに合わせた働き方を訴える。
「子どもが高校、大学と大きくなるにつれて教育費がかかります。大学進学時にどのくらいお金が必要かを想定しながら、働き方を考えたほうがいいです」
年収面で意識する“壁”もあれば、教育費など支出面で越えるべき“壁”もある。両方を見ながら、家計を上手にやりくりしたい。
※週刊朝日 2016年12月23日号