ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。今回は、DeNAが運営し、非公開化したキュレーションメディア騒動について論じる。

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 ウェブメディア業界が揺れている。11月中旬から下旬にかけてIT企業大手のDeNAが運営していたウェブメディア10媒体に問題が発覚。これを受け、同社はすべての媒体の記事を非公開化した。実質的に「休刊」状態であり、再開のめどは立っていない。

 問題の発端となったのは、同社が運営していた医療や健康、美容情報をまとめたキュレーションメディア「WELQ」。2015年10月にスタートし、破竹の勢いでアクセス数を増やしてきた。だが、今年10月ごろ、同サイトの運営方針に対する疑義がネット上で持ち上がった。一つ目の問題点は記事の信憑性が疑わしいこと。同サイトに掲載された記事に科学的、医学的な根拠に乏しいものが多かったのだ。「肩こりの原因は幽霊」「家系ラーメンは風邪に効く」「水素水でがん予防」──。記事タイトルを見るだけでも、その信憑性(しんぴょうせい)が推測できるはずだ。

 しかも、同サイトの記事の末尾にはこのような一文が挿入されていた。

 
「当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません」

 この記述が、医療情報というセンシティブな情報、ときには命に関わる情報を扱っているにもかかわらず、あまりにも無責任だ、と批判されたのだ。

 確かにネットには真偽が不確かな情報があふれている。だが、WELQを運営しているのは、1部上場企業のDeNAだ。社会的責任という観点から考えれば、自ら事業として運営するメディアの発信内容に責任を持たないというスタンスは許されない。

 もう一つの問題点は他者に著作権が存在する記事や写真の盗用や剽窃(ひょうせつ)を組織的に推奨していたのではないかという疑惑だ。バズフィードジャパンの報道によれば、同社の各媒体が依頼する外部ライター向けマニュアルに「複数のサイトから内容を寄せ集めて文章を書き換えれば独自性の高い記事になる」という内容の記述があったそうだ。単なる「コピペ」ではなく、文章を多少書き換えることで著作権侵害をグレーにし、盗用を推奨するとも読める内容だ。一方でネットで拾ってきた画像を著作権者に許可なく使ったことも指摘されており、内容の信憑性とともに著作権法の順法意識が問題とされた。

 12月7日に行われた謝罪会見では、経営陣から「著作権や品質管理に対する認識が甘かった」という謝罪の言葉が出たが、14年の同社のメディア事業開始時にそうした懸念は内外から指摘されていた。はたして本当に経営陣の「認識が甘かった」だけなのか、「問題を認識しながら利益を追求するためにあえて問題点には目をつぶって突っ走った」のか。そこが現時点では明らかにされていない。年内にも設置される第三者委員会が本件で一番重要なこの部分まで切り込めるか、注目したい。

週刊朝日 2016月12月23日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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