2カ月後、スーツを着た彼は、恵子さんを同じ敷地に住む兄に会わせ、それから両親の墓前に連れていって、「将来、一緒になろうと思うからよろしく」と紹介した。そこで気の短い恵子さんが酔っ払ったついでに「ホテル行こか」と誘ったが、「いや、明日早いから帰るわ」と逃げられた。

 出会いから7カ月後、恵子さんは「朝早く花見に行くから、前の日に(ウチ)来ない?」と招待された。

「年寄り向きのペアのパジャマと枕カバーが用意されてました。○○○(量販店)で買ってきたって。でもセンス云々(うんぬん)よりも、優しいなって思いました」

 居合わせた全員が声を上げて笑った。

「では、その夜?」

 と尋ねると、

「3回目くらいですね」

 恵子さんは、頭の中で数えるように宙を見つめた。それから、

「びっくりしました。この年で、そういうことあるんかって。昔から、そういうことにあまり興味なくて嫌だったんです。でも『絶対、断ったらあかんのや』って自分に言いきかせて」

 戸惑いを隠せないまま一気に言った。

 20代の結婚と違い、人間ができ上がっている者同士の結婚は、違うものが多すぎて、とても難しいと言われている。ところが長谷川さんも恵子さんも幸せそうで、肌もツヤツヤしている。その後、恵子さんの彼は、築40年の家を数千万円もかけて、新婚生活のためにリフォームを始めた。

「選んでいただいてありがとうって感謝の気持ちが大切。それと、言うべきことは、はっきり伝える」

 恵子さんは、真顔でうまくいくコツを語った。続いて長谷川さんが、

「相手の家族の悪口は言わないこと」

 と、穏やかにつけ加えて笑った。妻としての頼もしい落ちつきが感じられた。

 茜会大阪支店長の笹原郁美さんは「60代の結婚が一番難しい」と言う。茜会大阪では、60代の成婚は長谷川さんが初めてである。

「60歳から65歳って、一番収入が下がる時なんです。『年収じゃない』って、その年代を求める女性には、お話をするんですけど、大卒とか、背が高いとか、女性の求めるものは若い時と変わらないんです」

 ちなみに嫌われる男性は、「優柔不断。上から目線。過去の女性や妻のことを言う人。何も行動しない人」だそうだ。

 長谷川さんと恵子さんは、一歩前へ出たから、結婚のチャンスに出逢(であ)えたのではないだろうか。恋や結婚は、年齢に関係なく、自らの手でつかみにいくものなのである。

週刊朝日  2016年12月9日号