男性の食事の仕方がきれいかどうかは女性にとって大切なポイントである。淡路島のレストランで食事をすませ、その夜、2人は初めて結ばれた。
64歳で再婚する人生設計はなかったが、食事をしたりする男性には不自由していなかったと長谷川さんは言う。しかし、更年期をすぎた年齢でも、できるものなのだろうか。その時のことを尋ねると、一瞬、長谷川さんは言葉に詰まった。頬がほんのりピンクに染まっていく。
「そうですね。やっぱり男性やからね……」
長谷川さんは言葉を何度も切った。
「受け入れる気持ちがあるかどうかだと思います。その人に対して、何か不安があったりするとできないと思いますから」
その笑顔は、女性としての自信にあふれていた。
生活は大阪と京都で半別居状態だが、
「私も仕事をしてるから、ストレスがたまらなくて最高の状態です」
大阪からわざわざ千葉県佐倉市まで夫と出かけて買ったというメガネの奥で、長谷川さんは目を細めた。
そんな長谷川さんを穏やかに眺める恵子さんも、「再婚なんて頭にない人生設計を立てた」一人だった。それでも、茜会に入ると、お見合いをくり返していた。娘からは、
「理想ばかり言ったら、あかんねん。若くないんだから、ある程度妥協せんと」
とアドバイスを受け、けしかけられて勇気を持った後に出会えたのが、現在の婚約者で神戸の高級住宅地に住むツトムさんだった。
「梅田で会って、ハイキングとかウォーキングとか、野菜を作ってる話とか、コーヒー一杯で2時間も話し込みました。仕事が終わった後でおなかがすいてるのに言えないまま……」
相手は、大手生命保険会社を定年退職後、両親が建てた家と畑で年金生活を送る男性だった。しかし、彼は結婚についてはまったく触れようとしない。
「私、どういう風に思われてるのかわからなくて……。彼が何も言ってくれないから、焦りがあったんだと思うんですね。居酒屋でご飯食べながら、『今住んでる所は家賃が高いから、少し安い所へ移って生活する計画を立ててます』って、伝えたんです。そしたら『偉いなぁ。僕なんか、何にも立ててない。結婚2年で離婚されて失敗してるから、もうちょっと待って』って言われました」