木村:安倍首相も米国を気にしている。安保関連法で可能になった南スーダンでの駆けつけ警護など国際協調と言いながら、実は米国のやってほしい政策を先取りして、外交のフリーハンドと歓心を買っている。日ロ接近で中国が焼きもちを焼いているが、この点で対中外交上で、追い風にはなっている。

東郷:外交交渉は何が起こるかわからない。12月の首脳会談でどこまでいくかわからないし、期待値が上がりすぎていた。2年の間に解決に持ち込みたいというのが5月のソチ首脳会談での両首脳の意図であったとしても、領土交渉は極めて複雑。半年で大筋の結論を得られるかは疑問。他方、経済面では八つの項目のうち具体的な成果が早急に望まれる。それが出てくるか、注目したい。

木村:領土問題は12月からがスタートと考えたほうがいい。マスコミはあまり煽らないほうがいい。そう冷静になっていないと、世論の対ロ不信感と安倍首相への失望感が大きくなる。

東郷:13年7月、パノフ元駐日ロシア大使と共同で「2島プラスアルファ」の私案を提案した。これまでの交渉で実際にあった提案を活用したものだった。歯舞・色丹の2島については、56年の日ソ共同宣言で書いてある。国後・択捉についてのアルファは、98年にエリツィン大統領が「4島を特別の法的地位をもつ経済特区にしましょう」と小渕恵三首相に提案したので、これを国後・択捉のみにあてはめようという案だ。これは、概(おおむ)ねのイメージを言っているだけで、主権の問題を始め、本当に難しい問題にはまったく手がついていないのが現実です。詰めるべき問題は山ほどある。

木村:民進党の前原誠司元外相が衆院予算委員会で政府見解を聞いたが、安倍首相は「4島一括返還の原則に変わりはない」と言った。しかし、現実的なことで言えば、2島は帰ってくる。残り2島をどうするかが問題。首相が(国後島、択捉島の)帰属を認めないということだったら、ロシア側にどういう提案をするのか注目したい。

東郷:国の力が一番弱いときですら「それだけはできない」と言っていたロシアが、国の力が強くなったいま、「一括返還」に応ずるか。可能性はゼロであろう。しかも歯舞・色丹の引き渡しだけでも、いま住んでいるロシア人をどうするか、日米の基地配備の問題を含む非武装化の問題をどうするか、たくさんの実務問題がある。外務省の諸兄が全精力をなげうって補佐していただかねばならない。(構成 本誌・村上新太郎、森下香枝)

週刊朝日 2016年12月9日号