安倍首相とトランプ時期米大統領との会談 (c)朝日新聞社
安倍首相とトランプ時期米大統領との会談 (c)朝日新聞社

 北方領土問題の行方が注目されている12月15日の日ロ首脳会談。東郷和彦元外交官と木村三浩「一水会」代表のロシア通2人が、過去の交渉を振り返りながら、山積する課題とともに交渉シナリオを語り合った。

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木村:安倍晋三首相とプーチン大統領はこれまで15回会談し、信頼関係を徐々に築き、気心は知れあっている。日本に日ロ平和条約がないことは異常な事態。これに終止符を打つという安倍首相の意気込みは、非常に評価している。

東郷:今の流れが直接始まったのは2012年3月にプーチンが大統領に返り咲く直前の記者会見で「自分が大統領になったら、日本と経済協力を抜本的に進めたい。引き分けによって、領土問題を解決したい」と述べたときからです。引き分けの定義はどっちも負けないということ。いま、ロシア人で領土を返したいと思っている人は皆無ですから、本当にびっくりした。安倍首相も12年12月の再任以来、日ロ関係の活性化に努力。14年のソチ五輪開会式では出席した首脳中で一番厚遇されたが、ウクライナ問題が勃発。約2年間、交渉が止まってしまった。ようやく、今年から再活性化し、首脳同士での話し合いがこれほど重みをもってくる交渉は、私の知る限り、戦後、例がありません。ソチの時点で安倍首相の任期はあと2年、その間に決着させたいという意欲を感じました。

木村:私はプーチン大統領の側近と会ったが、一連の安倍首相のアプローチを高く評価しています。

東郷:日本の世論には、プーチン大統領においしい経済を食い逃げされて領土を返してもらえないかも、という不信感がある。それは乗り越えないといけない。「引き分けで解決したい」と相手が言っているときに「信用できないから話さない」と言うのか。もちろん熾烈な議論を経ずに接点は見えない。しかし相手がやろうというときに、こちらが逃げるのでは、引き出せるものも引き出せるはずもない。

木村:ロシアはしっかりつきあえば、頼れる国家。4島一括でなくても、弾力的にいろいろな形で先行返還でもいいのではないか。完全固定化よりマシだ。

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