


超高齢化社会が到来したいま、健康寿命を延ばすことに注目が集まっている。食生活は健康の基本。80を超えてもなお、各方面で活躍し続ける有名人の食卓から、秘訣を探った。
「桂子師匠」として幅広い世代から親しまれる、現役漫才師の内海桂子さん。94歳になった今も、月に8回は舞台に立つ。
「私ら芸人は、外へ出るとみなさんがそれはよくしてくださる。おかげさまで戦時中も慰問で三味線を弾いていたので、食べ物には困らなかった。出してもらう食事は何でもありがたい。家でも外でも、好き嫌いなんて生意気なことは言いませんよ」(内海さん)
家では夫の成田常也さんが食事の支度をする。夕食は、夜7時ごろ。取材した日は、ご飯、ワカメの吸い物、カボチャの煮つけ、金時豆、みそのしそ巻き、野菜の塩もみ、サラダ、焼き魚(サケ)と、バラエティーに富んだ献立だった。
表舞台に立ち続けるため、さぞかし食事には神経を使っているかと思えば、意外な答えが返ってきた。
「実は、7割がた買ってきたお総菜ですけどね。お吸い物も即席ですよ」(成田さん)
毎日少なくとも7、8品は並ぶが、決して豪勢なものではないという。近所に5軒ほど行きつけのスーパーがある。
「それぞれの店に、お気に入りのお総菜がある。1週間まかなえちゃう」(同)
普通の店に並ぶお総菜なので、年配の人向けにと食材をことさら細かく刻むことも、軟らかく煮ることもしていない。
「私、入れ歯は4本だけ。あとは全部、自分の歯ですよ。お煎餅も大好き」
と内海さんが言えば、成田さんもこう話す。
「江戸っ子なもので、しっかりした味付けじゃないと嫌みたいで。減塩なんて気にしてません」
それでいて血圧も正常、どこも具合の悪いところはないのだという。
「サラダも野菜だけじゃだめなんですよ。お肉を炒めたものや、ハムを散らしたりなんかすると喜びます」(成田さん)
そして、欠かせないのが、日本酒だという。
「お酒は常温。毎日いただきます。でもね、この人に、1合までって決められちゃってて。それ以上は飲ませてくれないのよ」(内海さん)
ぼやく内海さんの隣で、成田さんはほほ笑んでいる。
「浅草には、私と同世代のお客さんもまだまだいらっしゃいますからね。こっちも老け込んでなんぞ、いられませんよ」(同)
日本酒をさしつ、さされつする二人の姿はおしどり夫婦そのもの。当初は24歳の年の差婚と騒がれたが、今年で結婚17年を迎えた。健康の秘訣は夫婦で囲む食卓なのかもしれない。
※週刊朝日 2016年12月2日号