格差是正が叫ばれる日本。しかし、大富豪のいない日本では是正するのは「世代間」の格差だと、“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は指摘する。

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 夏の高校野球は、作新学院(栃木)が54年ぶりに優勝した。私の母校の東京教育大(現筑波大)付属高校はかつて、地区予選の初戦でノーヒットノーランを喫して負けたことがある。

 私は近年、野球部の同期OB会に参加させてもらっているが、昨年の忘年会で一番盛り上がった話題は、あの試合でダブルプレーを成功させたこと。我々世代の飲み会に多い病気自慢よりはましだが、何とも情けない自慢話に花が咲いた。

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 プロ野球に話を転じると、広島カープの黒田博樹投手は6億円+出来高払いで、日本球界の最高額を稼いでいる。すごい年俸!と驚くなかれ。米国雑誌フォーブスが6月8日に公開した「世界で最も稼ぐスポーツ選手」を見ると、海外では桁違いの高額を稼ぐ選手が多いとわかる。

 74位のヤンキースの田中選手の年収は24.6億円、年俸が23.5億円で、ほかにスポンサー収入がある。米国で活躍するダルビッシュ投手や岩隈投手もかなりの額と想像する。

 世界1位の年収を稼ぐのは、ポルトガルのサッカー選手のクリスティアーノ・ロナウド。スポンサー収入を含め、94.2億円という。日本のJリーグで最も稼ぐガンバ大阪の遠藤保仁選手の50倍以上になる。

 これでは、能力ある日本人プロスポーツ選手は欧米に渡り、日本のプロスポーツはマイナーリーグになり下がってしまう。テレビ中継があるとはいえ、我々日本人のスポーツ愛好家は、最高峰選手の活躍を生で見るチャンスを失う。

 最近、格差是正の話題を耳にすることが多いが、日本のプロスポーツ選手や経営者をみると、外国のようにずば抜けた高収入を得ている人はいない。日本に、とてつもない大金持ちはいない。それなのに、更なる格差是正を唱えれば、優秀な人材の空洞化が進み、国勢も衰えるのではないかと心配する。

 
 さらに、問題は税金で、一層の結果平等を招くことになる。様々な前提を置いたうえでの比較だが、田中選手と同額の2300万ドルの収入のある独身者の支払い税額(連邦税+ニューヨーク州税+ニューヨーク市税)は合計1114万ドルで、1186万ドル(約12億円)が手取りになる。年俸の50%以上は、手元に残る計算だ。

 一方で、黒田投手と同じ6億円の収入のある独身者の日本での支払い税額(所得税+住民税)は約3.3億円。手取りは2.7億円で、年俸の45%にとどまる。(なお、日米ともに事業所得にかかる必要経費をゼロとして計算している)

 相続税について言うと、米国で課税されるのは夫婦だと9億円以上から。一方の日本は(配偶者に子供2人の場合)4800万円からになる。所得税と相続税ともに大幅な累進課税の国は他にそう見当たらない。

 日本はまさに結果平等主義。能力ある研究者も海外に流出していると聞く。働いても働かなくても同じだと、若者のやる気は失せ、国の活力が落ちる。格差是正を叫ぶならば、「世代間」の格差だと私は思う。これを是正しないと、若者はやる気を失う。「我々世代は使う人、若い世代は借金を返す人」ではまずい。

週刊朝日  2016年9月9日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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