ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌新連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、AKB48の峯岸みなみさんを取り上げる。

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 部活動、就職活動、政治活動。活動というのは本来、その目的に対して努力したり精進したりする行為のことです。私たちの界隈でも、「ホモ活動」なる言葉があります。商売っ気を持ち込まず、純然たる「一ホモ男子」として、同性愛ライフや恋愛に勤しむことを言いますが、私にとって、この「ホモ活」が人生のあらゆる「活動」の中で最も難しかった。所謂(いわゆる)「リア充ホモ男子」になるぐらいなら、女装して売れっ子タレント気取りをする方が、遥かに容易(たやす)い。ちなみに、忘れかけていた「ホモ活動」の存在を思い出させてくれたのは、言うまでもなく宇多田ヒカルさんの「人間活動」です。知性に溢れ過ぎていて、差別用語にすら聞こえてしまいそうなネーミングセンス。新宿2丁目で「早く人間になりたい」と、使い古された戯言を言って小銭を稼いでいる私たちとはスケールが違います。

 兎にも角にも、世の中「活動ブーム」の様子。「婚活」「妊活」はおろか、「離活」「終活」といった「無理矢理ポジティブ」なものから、「友活(友達を作る活動)」なんて、私からすれば「ホモ活」以上に知られたら恥ずかしい活動まで。人々の「充足」に対する欲望は尽きぬ一方で、最近やたら耳にし、違和感を覚えるのが「アイドル活動」という表現です。もはやアイドルも「目指し日々努力すれば、就ける職業」になってしまったということでしょうか。「歌手活動」「芸能活動」「タレント活動」ならば分かりますが、「アイドル活動」とは……。例えば「スター活動」「カリスマ活動」「教祖活動」なんかと同等の矛盾やおこがましさを感じざるを得ません。

 
 そうは言っても、今や日本が誇る一大産業でもある「アイドル」。自己申告でその看板を掲げ、「インディーズ・アイドル」とか「地下アイドル」なんてカテゴリーも実在する昨今、アイドルとは「成っていく過程」も含めてのビジネススタイルであるわけです。古くはジャニーズもそうですし、ファンの購買運動によってチャート1位を達成したキャンディーズなど、まさに今のアイドル文化の原型と言えます。そして、その完成形がAKB48です。「活動(努力)」の図式を演者側と客側に共有させ、アイドルに大事なのは「努力」と「政治力」という、最も夢のない幻想を見せ、大成功を収めました。半面、努力や金じゃどうにもならない、数字では表せない「魅力」の競い合いこそがアイドルだという現実を、浮き彫りにしたグループでもあります。魅力の前田・大島。努力の柏木・たかみな。政治力の指原。皆、一流のアイドルです。

 そんな中、AKB創設メンバー最後のひとり「峯岸みなみ」をご存知でしょうか? この「アイドル活動」時代の申し子であり、良くも悪くも現代のアイドルらしさの象徴みたいな女です。アイドルとして「努力して頑張ればどうにかなる部分」と「どんなに努力してもどうにもならない部分」、そして「そもそもの選ばれし特別感」を、すべて同時に体現している人を、私は見たことがありません。彼女がグループの中で、ありったけのアイドルスマイルを作りながら唄う姿は、まるで名門女子校の持久走大会のようです。理論と不条理、性と特権の混在。10年間それを成立させてきた峯岸は、日本アイドル史におけるひとつの金字塔かも。やだ、超テキトー。

週刊朝日  2016年8月19日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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