薬にしても手術にしても、効果には個人差がある。治すのでなく、止める治療だから、鏡を見て「おやっ」と思ったら、早めに受診したほうがいい。うまくいけば、加齢の影響が出る40~50代まで「維持」できるかもしれない。



 巷には、多くのハゲ防止法があふれている。「ゴールデン」がつかないまでも、ほかにやってみるべきことはないのだろうか。

「あのね」と板見教授。

「薄毛の歴史は数千年前までさかのぼるんです。古代ギリシャのヒポクラテスやアリストテレスも薄毛に悩み、動物の糞尿を治療に使ったと言われています。でも、薄毛の治療法が確立されたのは1990年代に入ってからです。それ以前に広まった“治療”には、信用に足る証拠がない」

 科学的根拠のない粉末を頭に振りかけたり、ブラシで頭をたたいたり、マッサージで頭の血流を高めたり……そうした行為を板見教授は「イリュージョン(奇術)に過ぎない」という。

「帽子をかぶっていると蒸れて毛が抜けるとか、汗っかきはよくないとか、そういう言説にも確たる根拠はありません」

 近年、細胞を活用した“毛髪再生医療”が宣伝されているが、これにも注意が必要という。

「再生医療安全性確保法に則った申請をしたうえで治療をしているのか、不安が拭えません」

 同法は、民間の医療機関による再生医療の実態をつかむために14年に施行された。これにより医療機関は事前に厚生労働省に届け出ることを義務づけられた。裏を返せば、科学的根拠のない治療が横行しているから規制をかけたとも言える。

 さて、お待たせしました。再生医療といえば、よく耳にする「iPS細胞」ってどうなのか。iPS細胞を使った毛髪再生もマウスでは成功しているがヒトではまだハードルが高い。

 本人の毛髪が生えている頭皮から細胞を取り出し、何十倍にも培養したうえで、薄毛部分に注入する。これで頭にざっくざくと黒髪が生えてくる……ざっくり言うとそんな前評判だが、板見教授はこう話す。

「まだ臨床に応用されたばかり。安全性について極めて厳密に見ている段階です。身近な治療法になるにはあと50年……少なくとも私が生きている間には実現しないでしょうね。そもそも医療として薄毛の優先順位は低いですから」

 うーむ。どこかもどかしいが、これが限界か。

「脱毛のメカニズムがわかって25年。今後の25年も薬物療法が主役であるのは間違いありません。ちゃんとした皮膚科で診てもらうことが大事です」

 とくに40~50代だと、薄毛が加齢のせいなのかAGAなのか、その見極めが医師でないと難しい。

週刊朝日 2016年7月22日号より抜粋