落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「大目玉」。

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 知り合いや後輩に「いやぁ、昨日、上司に大目玉食っちゃいまして!」とか「あん時は師匠から大目玉でしたよ」などと打ち明けられた場合、私なら「こいつ、さほど反省してないな……」と思います。

 ちょっと古いけどもね、「大目玉」。あえて古い表現を使うところも、ちゃかし気味だし。

 カタチとしては謝ったけど、心の奥底で、自分には非があるのだろうかと思ってるフシが感じられます。そんな人にはちゃんと反省してもらいたいものです。「大目玉」食らわすほうも、あなたのコトを考えて、よかれと思ってるんだから。たぶん。

 私がパーソナリティーをしている某ラジオ番組での、何年か前のはなし。その日のメールテーマは「余計な一言」。

 生放送前にディレクターが、

「昨日、Aさん逮捕されちゃいましたね!! 1曲目『△△』に決めて台本まで刷ったんですが……曲、差し替えますか?」

「余計な一言」にまつわる選曲を事前にしておいたら、たまたまそのアーティストが、とある罪で逮捕されてしまったのです。

私「捕まる前に決めてたの?」

D「もちろんです。台本作ったら、急にニュース速報が流れて……ボクのせいでしょうか?」

私「なわけなかろう」

D「バッチリな選曲なんですけどねぇ……何しろいきなり“余計な~ものなど~”ですから」

 
私「たまたま、タイミングが重なっただけでしょ?」

D「はい。偶然です」

私「ちゃかしてるわけじゃないしなぁ……奇跡的に重なったんだから何かの縁じゃないか? 捕まった人の曲を流しちゃいけないってルールあるの?」

D「普通しませんよね」

私「けっこう流れてるじゃん。○○とか□□の曲」

D「ほとぼり冷めてからですよね、普通。捕まりたてホヤホヤの人のはかけませんね、絶対」

私「……容疑者なんだから、罪が決まったわけじゃないだろう。歌はみんなのものだ!! 曲に罪はないっ!!(毅然と)」

D「……カッコいいコト言った気になってます?(冷ややかに)」

私「へへ。わかる? でもさ、いーんじゃない。たまたまだし。それにこんな朝早く(日曜朝6時から生放送)からクレーム言ってくる暇人いねぇよ。かけよう、かけよう! なっ!!」

D「うーん……はい。わかりました……大丈夫かなぁ」

 私の押しの一手に、ディレクターもついに「セイ・イエス」。無事、Aさんの「△△」はその日の1曲目に全国へ流れたのでした。“キミはたしかにボクを愛してる”と“何度も言う”のでした。よかった、よかった。

 ……放送終了後、たくさんクレームが来ました。いわく「けしからん」「不謹慎」「社会的影響を考えろ」等々。

「大目玉」でした。貴重なご意見ありがとうございました。

 逮捕後、やはりAさんの曲は電波に乗らなくなりました。いまだに、多少の自粛傾向にあるような気がします。

 んー。「大目玉」。

 目玉を見開いて、凝らして、怒ってくださる方が世の中には一定数居るのですね。ありがとうございます。でもあんまり開きっぱなしにすると、ドライアイになりますから、たまーにマバタキしたり目薬差してみてもよろしいんじゃないでしょうか。

 ……て、ディレクターが言ってます。

週刊朝日 2016年7月1日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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