この戯曲は近松半二が中心となって描いたもの。同じ近松でも、名文美文を聴かせる近松門左衛門とは違い、近松半二の作風は雄大な構想、謎の多い筋立て、対照的な人物設定などが特徴で、それら巧妙な演出が悲劇を一層引き立てます。

 私は今回、太宰家の雛鳥を務めますが、従来の雛鳥とは異なる芸風に挑戦します。というのも、江戸時代以降、大坂には様々な劇場ができ、彦六座系や文楽座系など劇場ごとの芸風が存在しました。私が務めるのは、昭和三十一年に豊竹山城少掾と八世竹本綱大夫が公演で務めた近松座系といわれるもの。複雑で技巧的なのですが、非常に華やかな語り。六十年ぶりの復活に向けて特訓中ですのでご期待ください。

 日本人は三名園や三大祭りなどベスト三を選ぶのが好きです。文楽の三大名作は仮名手本忠臣蔵、菅原伝授手習鑑、義経千本桜。四つ目は?というと、今回の妹背山婦女庭訓が入ります。名作と呼ばれるものは初段からラストまで、各段の完成度が高いという共通点があります。妹山背山の段はこの一段だけで、東洋のロミオとジュリエットと評されるほど。皆さんもご覧になって、国を動かすほどの覚悟とはどういうものか、いま一度、政治家を選ぶ大切さを感じ取っていただけましたら。

豊竹咲甫大夫(とよたけ・さきほだゆう)
1975年、大阪市生まれ。83年、豊竹咲大夫に入門。今回の「妹背山婦女庭訓」では妹山背山の段の雛鳥、道行恋苧環の求馬、代役で杉酒屋の段を務める。

「妹背山婦女庭訓」は4月2~24日、大阪・国立文楽劇場(13日休演)。妹山背山の段は午前11時開演。詳細は国立劇場チケットセンター(ticket.ntj.jac.go.jp)。(構成・嶋 浩一郎、福山嵩朗)

週刊朝日 2016年4月8日号