「薬物依存症は暇を与えたらダメ」(※イメージ)
「薬物依存症は暇を与えたらダメ」(※イメージ)

 食べ物を盗んで命をつなぐ子どもが今の日本にも存在する。家庭環境に恵まれず、空腹から非行に走る。そんな子どもたちに手料理をふるまい、心のふれあいを続ける中本忠子(ちかこ)さん(82)という女性がいる。この30年余で200人以上の更生を支え、「広島のマザー・テレサ」と呼ばれている。

 現在「常連」のリキさん(仮名・21歳)も、中本さんに助けられて自立を目指している。親が刑務所などにいて不在だった時期があり、3歳上の兄がモヤシを万引きするなどして食いつないだ経験を持つ。中学生のころ、同級生が「俺よりかわいそうな子がおるんじゃ」と中本さんに引き合わせてくれたという。非行に走ったこともあるが、中本さんは見捨てなかった。

「悪さしたらばっちゃんに懺悔(ざんげ)する。隠そうにも隠されんもん」とリキさん。中本さんはどんな存在かと尋ねると、「自分のおばあちゃんです」と即答した。

「少年院に行ったときの審判でばっちゃんが来とって泣きました。裏切った。もう心配かけたくない」

 昨年、中本さんから関係機関に掛け合ってもらい、アルバイトの職を得て一人暮らしを始めたところだ。服にペンキが付いているのは仕事帰りだからだと、少し誇らしげに話す。まだ自力で食べていける余力はない。この日もカレーライスを2杯平らげ、さらに生姜焼き丼をおかわりした。

 中本さんは、リキさんのような少年が社会に見捨てられている現状に憤る。

次のページ