──演じていて面白かったところはどこですか。

 秀吉は苦境に陥っても、どんどんエネルギッシュになっていくんです。周りからとことん馬鹿にされるけれど、落ちても落ちても這い上がっていく。それが面白かったですね。朝から夜中までテンションを上げて演じすぎて、貧血を起こしたこともありました。

 その一方で、秀吉は繊細な面も持っていました。がむしゃらだけではないのも、愛すべきところですね。それは、妻のおねの存在があったからこそですが……。

──印象に残るシーンは。

 そうだなぁ。信長様の草履を懐で温めるところですね。秀吉の有名なエピソードです。我ながら感動しましたよ、うわ! 緒形拳さんが演じたあのシーンを俺が演じてる!って。あとは、サル、サルと周りにいじめられているなか、渡哲也さん演じる信長様が「サルではない、人じゃ」と言うシーン。その言葉が心に染み入りました。自分が世の中に受け入れられたようで。秀吉はその言葉にずっと支えられていくんですよね。

──秀吉にとって信長の存在は偉大だったんですね。

 いろいろ掘り下げていくと、本能寺の変は秀吉が仕掛けたって話もあるようですけれど。でも、信長と秀吉は相性が良かったんだと思います。信長は秀吉に対して本能的に感じるものがあり「この男は何かをなす男だ」と一目置いていたんでしょうね。部下の能力を見通す千里眼もあったと思います。農民上がりの秀吉は、相当ほかの武将たちから睨まれ、ガンガンとたたかれていたと思うのですが、信長様が守ってくれた。愛されていたんでしょうね。

──「軍師官兵衛」での秀吉役はいかがでしたか。

 晩年の落ちていく秀吉を演じられたのが嬉しかったですね。「秀吉」の時は、天下を取った人生のピークで物語が終わっていくので。僕は、ヒーローは落ちてこそ魅力的だと思っているんです。秀吉は天下人になってから、人生が狂っていく。嫉妬や恐怖に駆られ、自分を邪魔するものはすべて斬り捨てた。狂気の秀吉を表現できたと思います。ただのかっこいい男なんてつまらないですからね。無様になればなるほど演じ甲斐(がい)がありました。だから秀吉は僕の愛すべきヒーローです。

週刊朝日 2016年2月19日号より抜粋