そんな会話から、柄本さんは、「最初に希望を持ちなさい」と強要する社会の息苦しさに想いを巡らす。

「“希望を持て”っていうのは、“あなたはちゃんとしてなくちゃいけません”と同義だと僕は思う。でも、ちゃんとしてなきゃいけないのって、結構つらいよね。僕が映画館を好きなのは、あの暗闇なんです。暗闇の中で、“覗き”という罪を犯しているような気分になれたのに、最近は、シネコンとか、明るく健康的になっちゃって、僕はあまり面白くない」

 12月に上演される舞台「とりあえず、お父さん」の稽古場で。撮影のとき、「頬杖をついてもらえますか」というフォトグラファーのリクエストに、「みんな頬杖、好きだねぇ」とシニカルに呟いた。「写真家の荒木経惟さんは、顔周りに手を持っていくのは、自信のない証しだからよくない、とおっしゃいます」と伝えると、「そうだよなぁ。結局人は、何かに支えられてないと不安なんでしょうねぇ」と言って頬から手を外し、前屈みだった体をゆっくりと椅子に預けた。

週刊朝日  2015年12月4日号