病態のメカニズムにも未解明の部分が多く、治療法や予防法が確立されていないことも課題の一つ(※イメージ)
病態のメカニズムにも未解明の部分が多く、治療法や予防法が確立されていないことも課題の一つ(※イメージ)

 全国で約450万人いるといわれている筋力が低下する「サルコペニア」はギリシャ語を基にした造語で、近年提唱された新しい病態だ。国内外で病態解明と治療法の開発に向けた取り組みが進むサルコペニア。日々「老化」と対峙する私たちは、どう動けばいいのか。東京都健康長寿医療センター研究所・老年病態研究チーム運動器医学研究グループ研究部長の重本和宏医師に解説してもらった。

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 サルコペニアの定義については、日本老年医学会が「筋肉量、筋力、身体能力の低下」と定義づけており、現在国内ではこれをもとにした診断基準が設けられています。実際にはフレイル(筋力の老化)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)などと重複するところもあり、医療界においても混同されるケースが少なくないのが実情です。

 また、病態のメカニズムにも未解明の部分が多く、治療法や予防法が確立されていないことも課題の一つです。

 さまざまな疫学調査により、骨格筋の機能低下が高齢者の死亡率や老年症候群(認知症や生活習慣病など)の予後と密接な関係があることも明らかとなっています。さらに、「骨格筋と脳機能の関係」の解明に向けた研究も注目されており、認知症予防の観点からも、筋力維持の重要性が見直されようとしています。健康長寿を目指すうえで、サルコペニアの予防を無視することはできないのです。

 一方、サルコペニアの進行を遅らせるうえで、食事療法と運動療法は期待されるアプローチであり、ホルモンやビタミンの補充療法にも新たな治療法として注目が集まっています。

 現段階では研究途上のことが多いサルコペニアですが、確実に言えることもあります。それは予防にしても治療にしても、一日でも早く始めれば効果が期待できるということです。

 それも、「熱心に実践してもすぐやめてしまう」より、「日常生活の中で少し意識してみる」という姿勢、言い換えれば「心がけ」程度の取り組みでも、継続さえすれば、長期的に見たときの成果が大きく変わってくるということです。

 青信号の間に横断歩道を渡りきれない時は、サルコペニアの疑いがあります。

 今は余裕を持って横断歩道を渡れていても、筋肉の減少は、日々確実に進行しています。元気なうちから食生活を見直し、積極的にからだを動かすことが重要なのです。

週刊朝日 2015年10月2日号