TOmagazine 06世田谷区特集号
TOmagazine 06世田谷区特集号

 作家でコラムニストの亀和田武氏は、本誌連載『マガジンの虎』で、今回は雑誌「TOmagazine」を取り上げた。

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 最近あちこちで誌名を見聞きする、噂の「TOmagazine」(東京ピストル)を、初めて手にとった。

 東京23区に特化した“ハイパーローカル”なカルチャーガイド誌だという。足立区から始まって、目黒区、中野区、品川区などを経て、最新の6号は世田谷区特集だ。

 写真、デザイン、紙質などなど、ずいぶんと垢抜けた雑誌だなあ。これが最初に抱いた印象だ。先行する東京周辺ローカル誌「散歩の達人」とは180度異なる切り口で、東京にアプローチする。

 下北沢、三軒茶屋、二子玉川、成城学園。それら有名エリアに関して、世間で流通するイメージと実態は、こんなにも違いますよと具体的に指摘する。さらに松陰神社前駅の一帯がいまアツいよネといった、超ローカルな地元ネタにも頁を割く。“世田谷屈指の急勾配 岡本3丁目の坂”を見開き・縦写真1枚で見せる技には、うなった。

 小田急線の経堂駅に近い赤堤小学校に通った吉田篤弘と坪内祐三の巻頭対談では、地元で育ち、いまも暮らす区民ならではの“世田谷感”が語られる。「そもそも世田谷区は山の手ではないですからね」と坪内さん。「子どもの頃、バスで渋谷へ行く時に、松見坂上がひとつのポイントだった」の言葉に説得力がある。あの先からが都会だと。

 下北沢の急激な変化を、吉田さんはこう語る。「ぼくは最近、下北沢での乗り換えを敬遠してるんです。前はよかったですよね。あの井の頭線と小田急線の交差って、ものすごくアナログというか、ダイナミックで、絵になっていました」。私も同感。下北の駅では戸惑うことばかりだ。どうなる、世田谷。

週刊朝日 2015年9月11日号