シロスタゾールは脳梗塞再発防止の既存薬で副作用についても周知されている。猪原医師は言う。

「シロスタゾールの服用で頭痛などを起こす人もいますが、投薬を止めると治ります。安全性も確かめられていますし、使いやすいと思います」

 厚生労働省の定義によると、MCIは疾患ではなく「状態」だという。したがってMCIの人に保険適用による認知症薬処方は現状では原則できない。今回の治験でMCIの人に対してシロスタゾールの有効性がわかったとして、保険適用の処方薬として認められる可能性はあるのか。ぼくはその点も知りたかった。

 高齢者が急増し現在、認知症が大きな社会問題となっている。認知症になる前のMCIの段階で歯止めをかけることが急務だとぼくは思う。その際、処方薬ほかケアに関わる費用に保険が利くか利かないかは大問題だ。猪原医師は言う。

「高血圧と脳卒中の関係と一緒だと思います。高血圧の患者さんに血圧降下薬を処方しないといつかは脳卒中になってしまいます。製薬会社は近い将来、MCIは疾患として認められると判断、シロスタゾールが処方薬として活用されると予測していると思います」

 出回っている既存薬が他の病気の薬にもなったケースでは、てんかんの薬であるゾニサミドがパーキンソン病に有効だとして使われるようになったことがある。この場合は薬1錠あたりの成分量を少なくしたため、成分は同じだが新薬扱いとなって、トレリーフという商品名に変わっている。

 さらに注目すべき発言もあった。

「治験前の予測は控えなければなりませんが、これまでの調査からシロスタゾールは認知症の中でもレビー小体型に最も効果的で、次にアルツハイマー型、脳血管性認知症はその次というような報告もあります」

週刊朝日  2015年8月14日号より抜粋