猪原匡史医師(撮影/山本朋史)
猪原匡史医師(撮影/山本朋史)
国立循環器病研究センター(撮影/山本朋史)
国立循環器病研究センター(撮影/山本朋史)

 脳梗塞再発防止薬のシロスタゾールは、本当に認知症治療に有効なのか。このたび、国立循環器病研究センター(大阪)の猪原匡史(まさふみ)・脳神経内科医長が、認知症予備軍の軽度認知障害(MCI)の人に治験を始めるという。認知症早期治療実体験ルポ「ボケてたまるか!」の筆者・山本朋史記者が、猪原医師に話を聞いた。

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 猪原医師らのグループは昨年2月、シロスタゾールが認知症の進行予防にも有効だと発表した。論文はアメリカの科学誌にも掲載された。

 症例としては、淡路島の洲本伊月病院でアルツハイマー型認知症の進行抑制にドネペジル塩酸塩(アリセプト)を服用している患者さんがあげられている。その中でシロスタゾールを併用している人と飲んでいない人のミニメンタルステート検査(MMSE)を比較したところ、シロスタゾール併用組の認知機能低下が抑えられていることがわかったという。特に記憶の再生や自分が置かれている状況の把握能力(見当識)の低下にブロックがかかった。

 併用患者69例、アリセプトのみの患者87例で調査した結果である。

 猪原医師は言う。

「この調査はあくまでカルテの記録を基にした後付け的な解析です。今回の治験では、アリセプトとの併用ではなくシロスタゾール単体を使う。前向きの解析ができると期待しています」

 研究は、アルツハイマー病のモデルマウスでシロスタゾールが脳に蓄積する老廃物の排泄を促進する作用があることまでを、すでにつきとめている。

 MRI画像でわかった脳の微小出血が認知症と大きな関係があることは以前から知られていた。アミロイドβの増加によって血管に亀裂が起き、出血して認知症が発症するという見方だ。これがシロスタゾールによって回避できるのではないか、というのが猪原医師らの考えである。

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