「MCIというのは特定の疾患ではなく病的な状態を指す医学用語なのです。ですから、認知症の薬も保険適用で処方することはできません。一概にMCIといっても幅があります。ごく初期の方と障害が進んだ方とでは認知機能テストの結果も大きく違います」

 ぼくはMCIを特定の疾患だと思い込んでいた。厚生労働省のサイトにはMCIは「物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態」と書かれている。疾患ではなく状態である。MCIの場合、うつ病とか適応障害を併発している場合も多いという。

「認知症予備軍であるMCIの人たちを音楽や絵画など専門の先生をつけて本格的にトレーニングする病院は、私が前にいた筑波大学附属病院とここだけだと思います」

 厚生労働省はMCIの五つの定義を[1]記憶障害の訴えが本人または家族から認められている[2]日常生活は正常[3]全般的認知機能は正常[4]年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する[5]認知症ではない――としている。

 ただ、MCIの原因となる原疾患を放置すると認知機能の低下が続き、4年間で約50%の人が認知症になると言われている。

 ぼくの場合は、原疾患がアルツハイマー病かレビー小体型認知症。対処の仕方としては、薬物治療か、ぼくが励んでいるデイケアなど非薬物治療がある。

 朝田医師によると、これまでの治験の結果、既存の抗アルツハイマー病薬はMCIにほとんど効果なし。「全敗だった」。現在開発中の新薬にはMCIに効果が期待されているものもあるが、実用化には時間がかかるようだ。

週刊朝日 2015年7月24日号より抜粋