「流星ワゴン」のロケで広島県福山市を訪れた西島秀俊(左)と香川照之(c)朝日新聞社 @@写禁
「流星ワゴン」のロケで広島県福山市を訪れた西島秀俊(左)と香川照之(c)朝日新聞社 @@写禁

 ドラマ評論家の成馬零一氏は、日曜劇場『流星ワゴン』に出演している香川照之の演技が楽しみとこう語る。

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 昔、母が入院した時に、父が夕飯を作ってくれたことがある。

 作ってくれたのは、脂っこいカツ丼で、はじめて食べた時はとてもおいしかった。しかし、男親のレパートリーがそんなにあるわけもなく、毎日のようにカツ丼が続いた日には、さすがに胃もたれして、少し気持ち悪くなったのだが、当時は、父と会話をすること自体が苦手だったこともあり、何も言えなかった。

 TBS系日曜夜9時の日曜劇場で放送されている『流星ワゴン』を見ていると、父が作ってくれた脂っこいカツ丼を思い出す。

 原作は重松清の人気小説。タイムスリップを題材に父子の絆を描いたヒューマンドラマだ。

 この放送枠では『半沢直樹』でおなじみの演出家・福澤克雄を中心とするチームが制作している。

 永田一雄(西島秀俊)は家庭に不幸が続き、人生に疲れ果てていた。半年前に会社をクビになり、中学受験に失敗した息子の広樹(横山幸汰)は家に引きこもって家庭内暴力を繰り返し、妻の美代子(井川遥)は家を出て行った。

 全てを失った一雄は、泥酔し人生に絶望する。その時、一雄の前にワゴンが止まる。

 なんと、そのワゴンは過去に戻ることができるタイムマシンだった。そして、今は病気で危篤のはずの“忠さん”こと父親の忠雄(香川照之)が、一雄と同じくらいの年の姿で乗り込んできた。二人は家族の崩壊を防ぐために、過去へと運ばれていく……。

 物語は一雄が過去にさかのぼることで、妻と息子の悩みと向き合うと同時に、子ども時代の自分と忠雄の関係を回想するものとなっている。

 一雄が幼少期を過ごした瀬戸内海に面した広島県福山市・鞆(とも)の浦(うら)の風景は情感あるものとして撮られている。一方、現代パートでは、ショッピングモールや郊外のマンションが舞台となっており、この風景の対比が、一雄と忠さんの関係と大人になった一雄と広樹の関係を表している。

 一雄は忠さんの傍若無人で暴力的な態度に辟易して、「あんな父親にだけは絶対にならない」と思って生きてきたのだが、結果的に妻と子を追い込み、家族を破綻させてしまう。 「なぜ、こんなことに」と、一雄は苦悶するが、一見誠実に見える一雄の生真面目な振る舞いを見ていると、追い込まれていった妻と子の気持ちが何となくわかってくるのが、本作の恐ろしいところだ。

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を下敷きにしていることからもわかるように、基本的には娯楽作である。だが、いくら問題を解決したかに見えても、次の時間に向かうと、実は問題は解決していなかったという展開が繰り返されるというのは、なかなか辛辣で、家族というものがいかに簡単でないかということを実感させられる。

 平均視聴率は、第1話の11.1%(関東地区)以降、横ばいで、福澤克雄のドラマとしてはやや低めだ。これは中年男性のファンタジーとしては、問題設定が重すぎるからだろう。

 そんな中、香川照之が演じる忠さんのユーモアだけが唯一の救いとなっている。2時間スペシャルの第1話を見た時は、香川の演技があまりにもクドくて、ついていけないなぁと思ったものだが、今ではこのクドさこそが、楽しみとなってきている。

 身体にはあまり良くないかもしれないが、脂っこいカツ丼はやっぱりうまいのだ。

週刊朝日 2015年2月27日号