いま、もっとも旬な女優、尾野真千子。1997年、映画「萌の朱雀」でデビューし、さまざまなドラマや映画で引っ張りだこの彼女だが、デビュー当時の苦労を作家・林真理子との対談で語った。

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林:どんな役も自分のものにしちゃうからすごいですよ。尾野さんって、デビューが早いんですよね。

尾野:そうなんです。デビューって言っていいかわからないんですけど、初めて映画に出たのは15歳でした。

林:河瀬直美監督の「萌の朱雀」(97年)ですよね。地元の中学校のげた箱の掃除をしてるところを、監督にスカウトされたんですって?

尾野:はい。げた箱発信なんです、私(笑)。

林:ジャージーにズック姿という感じで?

尾野:そうです。

林:「映画に出ない?」って言われて、どう思ったんですか。

尾野:なんだろうな、うれしいとも違うし……。映画館も近くになかったし、たくさん映画を見てたわけじゃないからピンとこなくて、夏休みの思い出づくりぐらいにしか思ってなかったですね。

林:やってみて、楽しかったですか。

尾野:ほんとに楽しくて、キラキラしたものがいっぱいあって、スタッフがおもしろくって。お芝居っていうお芝居もしなかったんですが、この世界に入ればこの人たちとまた仕事ができると思って、それで高校を卒業して東京に行ったんです。

林:「このまま女優やりなよ」とか「東京に出てきなよ」って、みんなにすすめられて?

尾野:いえ、東京に行くって決めたのは自分なんです。それで18歳でいまの事務所に正式に入ったんです。

林:出てきてすぐに仕事があったわけではないんですか。

尾野:ないです、ないです。「名前をなくした女神」(2011)のとき、バイトをやめたぐらいですから。

林:それまではバイトをしてたんですか。どんなバイトを?

尾野:いろいろやりましたよ。近所のスナック、事務系……。

林:バイト先で、「女優をやっている」とは言わなかったんですか。

尾野:いえ、言ってました。みんなすごく協力的で、「オーディションがあるので、きょう休ませてください」って急に言っても「いいよ」って言ってくれて。人にはすごく恵まれてました。

週刊朝日  2015年1月16日号より抜粋