プログレッシブ・ロックを代表する伝説のバンド、ピンク・フロイドが20年ぶりとなるアルバム『永遠(TOWA)』を11月19日に発売する。新作は2008年に他界したキーボード奏者リック・ライトへのトリビュートで「最後のアルバム」という。ドラムのニック・メイソンが、日本の思い出を語ってくれた。

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――71年初来日の「箱根アフロディーテ」の時のことは覚えていますか?

「もちろん。すごく感激した、素晴らしい体験だったよ、初来日は。あれほどエキゾチックな所に行ったことはなかったから。箱根は何回かした来日公演の中でも一番のお気に入りだろうな。すごく楽しかった。箱根に泊まって、夜には花火があがって。天候は悪くて、雨風が強かったが、フェスティバルとしての雰囲気は最高だったよ。音楽フェスの醍醐味が感じられた」

――観客のことは覚えていますか。原っぱの地面に座って、グラストンベリーほど大規模ではないですが、良い雰囲気だったのでは?

「初期のグラストンベリーみたいだったよ。まさにね。本格的なミュージック・フェスティバルで、かなり時代の先端をいっていたと思うな」

――88年の武道館公演についての思い出は?

「夕方の早い時間、ほとんどティータイムみたいな時間からショーが始まったのが印象に残っているな。でもその時の印象はそれほどないんだ。日本に2、3回も行くと段々慣れてきて、異国情緒も薄れてきたからね。カルチャーショックを受けたのは初来日の時だね。あれが一番印象に残っているよ」

――ピンク・フロイドは壮大なスケールのステージ・セットで有名ですが、日本まで持ってきて再現するのは大変だったのでは?

「そうでもなかったね。ロード・クルーが優秀だから。日本はどこに行っても、みんなテクノロジーに精通しているからね。大きな問題があった記憶はないよ。イタリアや東欧では大変だったけど(笑)、日本では照明も必ず誰かが直してくれる。それに僕らの機材のほとんどが日本製だしね」

――最近、ザ・フーが最後のツアーを発表、ツアー引退を宣言する一方、同世代の人たちが現役で頑張っています。どう思われますか?

「それぞれ自分に合った道を行けばいいと思う。ピート(・タウンゼント)とロジャー(・ダルトリー)が2人で最後のツアーをやるというのも良いだろう。彼らこそがザ・フーなんだから。僕らの場合、デヴィッドがやりたくないと言うなら、僕は一人でピンク・フロイドをやる気はないよ」

(聞き手 高野裕子)

週刊朝日  2014年11月28日号より抜粋